第31話 「すみません! 勇者の義姉(予定)です!! その手に持ってるマスラオ様は忘れ物じゃありません! 返してください!!」

 お父さんが力なく崩れ落ちる。


「うほほほー!! なんか知らんけどやったわ!! 私の勝ちじゃ!! このイケおじは持って帰るからなぁ!! そっちのウサギはもういらんから、お前らにあげるよ!!」


 転がっているマスラオがメスゴリラーンにゲットされた。


 マロリは端末の角度について考察中。

 「やー。奥が深いっすねー。あ゛! クソ!! またウチの脚映ってたんすか!? こいつらすっげぇ小さい痕跡を執拗に見つけてくるんすけど。キモッ!!」とブツブツ言いながら画角調整に余念がない。


 ロリリンファンが「もっと上から撮った方がいいよ!」「そうだよ!!」「とりあえず下の方映してみて!!」「フリル可愛いねぇ。青が好きなのかなぁ? ふふふ」と頑張ってコメント中。

 もう魔法少女のパーツだったらニーソックスでもブーツでも、フリルの端でも興奮できる訓練された戦士たち。


「あー!! ちょっと、ゴリラさん!! それあたしのお父さん!! 持っていくのはダメ!!」

「うっほっほ!! チャー・ハァァンでは取得物は拾った者に10割の権利が与えられるのさぁ!! こりゃ私のもんだよ!! 今晩は優しく尻を撫でられるのさ!!」


「あたしに魔族の弟か妹がデキちゃう!! お尻撫でたらもう赤ちゃんデキちゃうじゃん!!」

「うっほっほっほ!! ……そんならさっきの攻防で1000人くらいデキとるわ!!」


 お父さんに悪口を言っていいのは娘だけ。

 お父さんを持っていかれると嫌なのも娘。


「うっ……!! や、やられたぁ……!! 足が……!!」

「マジすか!? エリリカ、怪我してたんすか!? それは早く言えなんすけど!?」



「ずっと女の子座りしてたら……痺れて……!! た、立てない!! くぅぅ! ギリギリスカート捲れそうな角度をキープしたばっかりに!! 卑怯ですよ! ゴリラさん!!」


 手を太ももの間に挟んで少し恥ずかしそうに下を向いて照れた様子を維持しつつ、肩を上にあげて背中を丸め前傾姿勢をキープし胸を主張させることで可愛らしさは3割増しになると予習済みのエリリカ。実践していた。



 なお、この座り方は関節や筋肉に負担がかかり、柔軟性に優れていない者が長時間行うとふくらはぎ、膝、太もも、腰、背中、そして骨盤にまでダメージが及ぶ。

 可愛いは簡単に作れない事を教えてくれる諸刃の剣。


「なんすか。心配して損したっす」


 マスラオのピンチに立ちはだかる乙女はちゃんと存在した。

 杖をクルクルと振り回してから床に突き立てると、杖が折れる。


「お待ちなさい!! マスラオ様は置いて行ってもらいます!!」

「はぁぁぁ? たかが僧侶か聖女が私に何をするってぇ? そのほっそい腕や足で? 私ゃゴリラじゃ!! 引っ込んでろ!! 柔らかそうな人間が!!」


 コメント欄が「ゴリラ終了」「シカはこれで死にました」「セフィリアさん来たぁ!」「ロリリン! 画角調整を活かせ!!」と盛り上がる。

 お父さんガチ勢が静かになったものの、セフィリアファンの方がはるかに多かった。


 杖を突き立てるとお尻を突き出した構えを取る事をもうみんなが知っている。


「狼藉は許しません!! このセフィリア・チョロス!! 遺伝子は独占するタイプ!!」

「おっしゃ! キタコレっすわ!! いいっすよー! セフィリア!! あんたは乳だけじゃないんすからね!! 尻もイケる!! もっと突き出していいんすよー!! 下はフレアスカートだったっすよね? おし、コメント欄の野郎ども!! フレアスカートってどんな捲れ方するんすか!?」


 視聴者と配信者が一体感をキメるのもまた生配信の醍醐味。

 そして勇者配信の楽しみ方。


 「プリーツスカートよりよっぽど捲れるよ!!」「下から! 下から行って!」「ロリリンがロリリンでマジで今日もロリリン」と完全にシンクロするバロス・チョロス・ロリと視聴者たち。


「しゃーねぇっすね! おらぁ! 変身!!」


 良い画を撮るためには機動力も必要。

 マロリが変身した。


 「あぁー。ロリリンに抱かれるこの感覚」「たまらないですなぁ」「おや。あなたも分かりますか」「揺れない胸に抱かれる事こそ真理」と、もう変身シーンも見ていないのに雰囲気で興奮できるようになったロリリン勢。


 いざ、クライマックス。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 セフィリアが床を強く蹴った。


「やぁぁぁぁ! いと毛深き森の生物よ!! 生まれて来た事を悔いながら土に還れ!!」

「なんつー事言うんだ、この女ぁ!! 私ゃ首都生まれだって言ってだろ!! 帰るなら実家だわ!!」


 鑑定士とは、その名の通り万物の鑑定を行う職業である。

 だが、鑑定士が身体を鍛えてはいけないという括りはない。


 乳搾りばっかりしていたら手首のスナップだけで魔王をバラバラにできるお父さんもいるのだ。


 チョロス家は代々屈強な男との間に子を成し、次代はさらに屈強な男と子を成す。

 これを繰り返すことで常軌を逸したフィジカルと抜群のスタイルの両方を継承して来た一族。


 セフィリアは11代目。

 生まれて初めての食事はTボーンステーキで、初めて喋った言葉は「力こそパワー」だったとか。


 そんな彼女の趣味は筋トレをはじめとしたスポーツ全般。

 特に好むのはバシューン。


 バシューンとは相手の顔面を細分化してポイントを割り振り、先攻後攻の順にぶん殴って獲得ポイントを競うプロヴィラル古来の歴史あるスポーツ。

 セフィリアは2歳の頃から嗜んでいた。


「ゴリラさんはとても良いですね!! 狙う的が大きくて!!」

「大ジャンプしかできない小娘がさえずってんじゃないよ!!」


「いとほにゃらららら!! 以下省略!! ええと……。こうしましょう!」


 思い切り振りかぶったセフィリアが、左手を顎に当てて少し悩んでから言った。



「セフィリアパンチ!!」

「バカがぁ! そんなほっそい腕でなにがでべ」


 ゴリラの上半身が消し飛んだ。



 バシューンで最も得点の高い場所は鼻。

 鼻を綺麗に殴ると700ポイントが加算される。


 だが、このスポーツには必勝法が存在する。


 先攻後攻をこなして1ターンと換算されるため、先攻が殴った後に後攻が攻撃を放棄、あるいは不可能な状態になるとその時点でコールドゲームが成立。

 つまり先攻で一撃必殺。


 これが必勝。


「ご無事ですか!! マスラオ様!!」

「あ。ごめんね、セフィリアちゃん。私、なんか死んでたみたい」


 メスゴリラーンを撃破。


 着地の際にマスラオを両手で抱えていたセフィリア。

 つまり、スカートが捲れても遮るものは何もなく。


「良い画が撮れたっすわ!!」


 視聴者が40000人を突破していた。


 チョロス家の乙女は下着の素材から刺繍に至るまで大変なこだわりを持っているとかいないとか。

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