第32話 勇者配信成功!! ~お父さんと魔法少女が静かに息を引き取った~

「わー! たくさんの応援、ありがとうございましたぁー! みなさんのおかげで、無事に勇者として魔王を倒す事ができましたー!!」


 エリリカが締めの挨拶をしていた。

 背景はピンク色の血が噴き出す幻想的な景色。


「いや、倒したのセフィリアなんすけどね。ただまあ、エリリカも頑張ったっすよ。うん。ウチも裏方としての地位を確立できたし。完璧な勝利っすね!!」


 マロリはずっと端末係を堅守。

 彼女の声は生配信なので編集できず、姿なき魔法少女が喋るたびに「オレたちはロリリンに抱かれている」「声がね、声がするの」「ロリままぁー」とコメント欄が賑わう。


「くっそキモいっすね!!」



 マロリの端的な感想にもっと賑わった。



「ふぅー。鑑定魔法を少し使い過ぎてしまいました。あ! 立ち眩みが!! マスラオ様!! 立ち眩みが!! マスラオ様を助けるために少しだけ無理をし過ぎました! わたくし!!」

「えっ!? そうなの!? ごめんねー! じゃあ私が肩貸そうか?」


「ぜひ!!」

「お安い御用だ! セフィリアちゃん、軽いねー! エリリカちゃんと同じくらいなんじゃないの? 体重! ちゃんとご飯食べてる?」


 マロリの判断でカメラは傷を長い舌で舐めているウサペロスに向けられた。

 「いやー。童貞さんたちにおっさんのご褒美シーンは辛いっすよ」と慈愛に満ちた配慮である。


「ほい。エリリカ。続けるっすよー」

「むぅー。ちょっと待ってて!!」


 フレームアウトするエリリカ。

 駆けて行った先にはお父さん。


「お父さん!!」

「えっ! ごめんね!? 何がいけなかった!? あ! お父さんまだベタベタしてるから!?」


「そっちのベタベタは良いけど! なんかもぉ! あたしも足が痛いから!! おんぶして!!」

「……神様! ありがとうございます!! エリリカちゃん!! おんぶしていいの!? お尻に触ることになるけど!! ねぇ!? 8歳の時以来だよ!? 8歳と3か月と16日以来!! うわああああ!! お父さん、とてもうれしい!!」



 視聴者が5000人減った。



 「ちっ」と舌打ちをしたマロリがカメラに顔を出して、ウインクしながら告げる。


「あー。魔法少女マロリンからのお知らせだゾ!! あのおっさんはエリリカのパパでセフィリアの…パパだから! おっさんを推しておいたら良いことあるかもだゾ!! とりあえずおっさんの周囲をぐるりと回るっすねー!!」


 マロリの端末にはセフィリアの接写から始まり、エリリカのローアングル、そしてお父さんと順番に映し出された。

 「ちょっときついっすか……?」と渋い顔をしたマロリ。


 コメント欄には「お義父さん!!!」という野郎たちの叫びが溢れており、視聴者が7000人増えていた。

 お父さんがいればセフィリアには隙が生まれ、エリリカがちょっと可愛く嫉妬したりする。


 畳みかける魔法少女。


「いいっすか! 魔法少女マロリンとの約束っすよ! 父を崇めると乳が拝める!! はい! 復唱!!」


 コメント機能が一時的に不具合を起こして停止する事態となった。

 原因はいくつか考えられる。


 エリリカファン、セフィリアファンがお父さんガチ勢と和解し、大連立を組んだ事。

 あとは些細な事だが、マロリがうっかり端末を反対側、つまり自分の方に向けて変身解除をしたくらいである。


 チャー城の勇者配信、成功。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 2時間後。


「ああー! 皆さま! お疲れさまでした!! お父様はご無事!! 娘様は……なんだか複雑なお顔!! 鑑定士様は……すっごい返り血ですね!! ロリリン様は……どうして涙目なのでしょうか!! 軽食のご用意できましてございますぅ!!」


 ザッコルがチャー城にやって来ていた。

 闘技場にはヤッコルが軽食コーナーを設置済みで、魔王の次席だったウサペロスが「お世話になっておりますぅ。この度、弊ハァァンの魔王が死にまして。はい。ご迷惑をおかけします」と隣のハァァンのガイコツ魔王にご挨拶中。


「ガイコツくん」

「はい。お父様」


「ここは今日からエリリカちゃん帝国ってことでいいね?」

「……その件なのですが。それをやりますとですね。淫乱宰相に気付かれますよ?」


「なにかい!? エリリカちゃん帝国を建国しちゃダメなのかい!?」

「いえ、結構だと思いますが!! あの!! 淫乱宰相が攻めて来ますけど!?」


 エリリカがお父さんの方を見ないで言った。


「お母さんに会ってみたい!!」

「エリリカちゃん? お母さんって言っても、お母さんじゃないよ? 私だからね、エリリカちゃんのお世話して育てたの。タオヤメはたまに私を抱いてただけだから。エリリカちゃん? なんでこっち向いてくれないの? エリリカちゃん。ねぇ、エリリカちゃん?」


「う、うるさいなぁ!! お父さんにおんぶされたから!!」

「あー! 照れてるんだぁ! 可愛いなァ! エリリカちゃん!!」



「ち、違うし!! く、臭かったの!!」


 マスラオが静かに息を引き取った。



 セフィリアはローブを脱ぎ捨てて軽装に。

 そのまま座り込んでいるマロリの前で屈んだ。


「マロリさん! 元気出してください!!」

「乳が話しかけてくんなっす……」


「大丈夫です!! 一瞬でしたから! 生配信でしたし!! 見えてません! 見えてません!!」

「……そっすか? ウチ、ガチで裸晒してんすけど。マジで見えてなかったっすか?」



「出ました!! ……あ。出ませんでした!!」

「もーやだっす。こんなんひどいっす。だったらウチが魔法少女してた方が良かったっす。10分くらいで変身キープ辛くなるのに、ウチが裏方って配置ミスっすよぉ……」


 その後にセフィリアが「端末の保存機能を駆使した童貞の方が700人ほどいます!!」と結局出したので、マロリも静かに息を引き取った。



 ンビューのサンドイッチをお皿に盛って運んできたヤッコルがぼそりと言った。


「もう呼んじゃえば良いんじゃないです? チャー・ハァァンの魔王不在になったんですし。下剋上システムでとりあえず次の魔王を名乗る人は出さないとですし。盛り上がりますよ? 淫乱宰相が攻めて来たって。オレでも見たいですもん」


 エリリカの瞳がキラリと怪しく輝いた。


「セフィリアさん!!」

「そうですね!! こっちから行くの面倒ですし!!」


「違うよ!? 盛り上がるんだよ!! あたし、ついに村娘じゃなくなるし!!」

「あー!! 確かに! 魔王になりますね!! おめでとうございます!!」


 お父さんが息を引き取っている間にエリリカが下剋上システムの適用申請を済ませ、チャー・ハァァンの魔王になっていた。

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