第37話 バロス・チョロス・ロリVSお父さんとお母さん

 魔法少女は空が飛べる。

 魔法少女は速く動ける。

 魔法少女はフリルが揺れる。


 だけどこの魔法少女は体がブレない。

 揺れない。


「おっしゃ!! 大迫力のシーンをお送りするっすよー!! 野郎ども、しっかり見てるんすからね!! ウチ、かなり命の危険を冒して配信してるっす!!」


 魔法少女マロリ・最終決戦フォーム。


 彼女の魔装はスカートらしきスパッツ丸出しの腰巻。

 それより上はシースルー素材のインナーが腹部と胸部を覆っており、その上から申し訳程度の丈しかないローブがちょこんと乗っている。

 ローブの中央部には宝玉が付けられており、それが何の意味を持つのかは魔法少女にも分からなかった。


 分からなかったので、1か月前に思い切ってちぎった。

 今、その部分は端末を固定するための空間になっており、ついに視聴者はロリリンの胸に抱かれて、ロリリンの胸目線の映像を、ロリリンと共有できるステージへと到達していた。


 ライト層は「なんだか最近、エリリカちゃんやセフィリアさんのバストアップが多い気がする。とても助かる」と感じていたが、魔法少女ガチ勢は逆に「ロリリンのプロ意識の高さに敬服した。黙って抱かれよう。この無乳に」と無上の喜びを課金という形で献上している。


「君の胸からは乳は搾れない!!」

「確かに! ですが! 時期を狙えば搾れます!!」


「そうなの!?」

「ええ! ご存じありませんでしたか!! では、致してから1か月ほどお待ちください! サキュバスは1か月くらいでイケます!!」


「クソっすね。エリリカの親父と母ちゃん。これはガチで同情するっす」


 お父さんとお母さんから繰り出される魔言が刃となって次々と襲い掛かる。

 エリリカが標的、あるいは終着地点となっているので、マロリは「動くんじゃねーっすよ。逆に守りにくいんすから!!」と指示を飛ばして、ついでに飛んで来る刃をアクロバティックな動きで破壊する。


 マロリは蹴りが主体の魔法少女。

 魔法少女は蹴るか殴るかビーム出すかの3種類が基本とされ、フリルがついたヒラヒラのミニスカ、さらにスパッツタイプの魔法少女は基本的に蹴りで戦うべしという不文律が存在する。


「ねーっす」


 だが蹴りが主体なのは変えられない。

 結果として、胸に固定された端末カメラにはマロリのソックスやブーツ、フリルが映し出され、今回ばかりは彼女も意図していない所でコメント欄が盛り上がっていた。


 最終決戦フォームの欠点はマロリも端末操作ができないので、コメントが読めない点にある。


「マロリさん!!」

「セフィリア!! やっと協力するんすか!! いつ来んのかって待ってたんすけど!!」



「今! コメント欄がですね!! ロリリンのスパッツちょっと裂けてね? という話題で持ち切りでして!! 出ました! ちょっと裂けてます!! それ、下からは何が出て来るのか教えてもらえますか!? 鑑定魔法でも出ませんでした!!」

「……は? ……ぁ。……ぁぅ。……エリリカ。これまで楽しかったっすよ」


 魔法少女ロリリンのスパッツの下は映せない。

 無念のリタイアであった。



 大きな声の34歳男性、職業乳搾ラー。

 35歳サキュバス女性、職業魔国議会宰相。

 こちらは止まる気配がない。


 マスラオはとにかくこの機にタオヤメを帰らせたい。

 徹底的に拒絶しておかないとまた来ると確信しているので、絶対に帰らせたい。


 タオヤメはもう遮るものが何もないので絶対に帰らない。

 ただし合意の上で抱かれたいので説得をヤメない。


 地獄は終わらない。


「分かりました!! 黒と白のまだら模様の下着を買って来ます!! これで良いですか!」

「良くないよ!! 私、牛に興奮したって言ったけど、それ乳搾りの行為にだから!! 牛柄で興奮してる訳じゃないの!!」


「ご安心ください! マスラオ様!! 指先でチョンとやれば下着から乳が出ます!!」

「君の乳は牛の乳じゃないだろう!!」


 セフィリアが杖をついた。

 当然のように折れる。


「ウチは撮影スタッフに戻るっすね……。えー。魔装って破けるんすか? マジすか……。これ、中どうなってんすかね。ウチも知らねぇんすけど……。もうぜってぇ変身しねぇっす」


 マロリの見守る中、セフィリアが詠唱を始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「いと愛しき慈愛に溢れたこの大地よ。母なる愛たる胸部を揺らす愛撃を今! ここに示せ!! 『簡易な乳揺らしチョロス・バーストシェイク』!!!」


 ニポーンでは達人と呼ばれる領域に到達した武術家の放つ拳の一振りは、真空波を産み出すとされる。

 セフィリアは生まれた時から恵まれていたフィジカルをさらに鍛えぬいて来た乙女。


 とっくの昔に正拳突きで真空波を放つ事は可能であった。


 いくら防いでも魔言が飛んで来る。

 ならば本体を叩くしかない。


 遺伝子が絶対に欲しいマスラオに拳は向けられないが、何となく親近感を覚える程度のタオヤメになら割と簡単に拳を振り抜けたセフィリア。

 真空波がタオヤメを襲う。


 ザッコルが3度バラバラになるほどの威力を秘めた脳筋乙女の拳が、卑猥の象徴へ向かっていざ迫る。


「んっ!! 清楚なお嬢ちゃん!! あなたぁ……!!」

「セフィリアちゃん!! 君ぃ!!」



「良い感じにおっぱいが揺れるわ!! ナイス援護射撃!! あなたにはやっぱり光るものがあるわね!! これが終わったらお茶しましょ!!」

「何してるんだい!! 私を追い詰めてどうするの! 今すぐそのパンチをヤメるんだ!! それは私にキク!! マスラオのマスラオに効果があるんだ!! くっ!!」


 地獄が加速した。



 タオヤメはフィジカル自慢の領域では括れないほどの屈強な肉体と、柔らかいフカフカボディの二律背反を淫乱で混ぜる事のできる乙女。

 彼女の手にかかれば自家製マヨネーズなど数秒で完成する。


 混ぜられぬものなど魔国に存在しない。

 あるとすれば眼前の益荒男の遺伝子だけ。


 淫乱とは乱れるものはだいたい纏める事のデキる者の総称。

 選ばれし乙女の前ではガイコツがバラバラになる程度の真空波など、ちょっとしたエンターテインメントにしかならない。


「くぅ……。わたくしもここまでですか……!!」

「や! 良い画が撮れたっすわ! セフィリア、今日は珍しくピッチリしたタイトスカートっすからね! ラインが浮き出てたって野郎どもが大興奮っすよ!! あー! 稼げたっす!!」


 魔法少女と脳筋鑑定士がそれぞれ視聴者にサービスを提供して屈する。


「待って!! 2人ともありがと……。もう大丈夫だから! あたしがやる!! うちのお父さんとお母さんの事だもん!! あたしが!! あたしにしかできないよ!!」


 ついに我慢の限界が来たのか、エリリカが涙を拭いて剣を抜いた。


「あたしはエリリカ!! 勇者だから!!」


 お父さんを倒す算段はもう付いた。

 問題はお母さん。


 会話したのはついさっきという関係の希薄さ、血も繋がっていないお母さんを相手にどう立ち回る。

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