第二章 荒れる戦場

第十三話 聖都

 

 カーメライツ神聖国、聖都ーーー


 ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ


 私の振り下ろす剣が空を斬る。一撃一撃を丁寧に、ぶれないように素振りを行う。回数よりも質。より鋭く、より正確な太刀筋を目指して。


「ふぅ、、、」

「お疲れ。今日も素振りか?精が出るな」


 素振りを止めると、リリアが水とタオルを渡してくれた。


「それしかやることがないしね。リリアだってやることないからここに来たんでしょ?」

「まあな、部屋にヘーネのように部屋に籠って読書にふけるのは性に合わない。それに、動いていないと体がなまってしまう。そこでだ。どうだ?一つ、手合わせをしないか」

「うん。胸をお借りします」


 私はペコリと頭を下げてから、十歩程後ろに下がり、双剣を構える。加速アップテンポを使えば勝てるけれど、それでもリリアに勝つには10テンはないと厳しい。剣に関しては、私はリリアに胸を借りる側なのだ。


 さて、何で私たちがこんな風に鍛練をしているかというと、、、







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 3ヶ月前、コーメルム王国、ルモーネーーー


「神聖国から?」


 エクトでの戦闘後、私は近くの都市のルモーネで療養に励んでいた。加速アップテンポ30サーティー。あれ以上速くすると、速すぎて体に負担がかかるのだ。使うときは基本的に自動回復オートヒールとかの魔法と併用するようにはしているんだけど、それでも多少の負荷はかかり続けている。それを回復するために、使用後は少し休む必要があるのだ。

 そうして療養をしていた私の元に、カーメライツ神聖国から手紙がきた。内容は救助要請だ。


 カーメライツ神聖国。この国は世界最大の宗教であるカーメライツ教の総本山だ。他の宗教はもっぱら土着宗教でカーメライツ教に並び立つ宗教は少なくともこの大陸には存在していない。私の家もこのカーメライツ教の神官の家柄だ。


 そんな凄いカーメライツ神聖国なんだけど、他にも特徴がある。それは国として武力を放棄していること。各地に置かれる教会の聖騎士や、カーメライツ神聖国が有している"預言"の巫女様の親衛隊等、例外もあるにはあるのだけれど、それでも総合しても小国の全軍と同じかそれより少ないくらいの兵力しかない。これは大国としては異様だと言える。


 じゃあ、戦争時にはどうしているのかというと、信徒のいる国に救助要請を出して乗り凌いでいるのだ。今回の私への救助要請も、国に対して軍の派遣要請を送ったうえで保険、もしくは秘密兵器としての役割を期待されているのだと思う。

 もちろん、断る必要性もない。というわけで私はヘーネとリリアとの三人で直行した訳なんだけど、、、








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「来ていただいて申し訳ないのですが、実はまだ戦線が開かれるどころか魔王軍の魔の字も見えていない程でしてね。待たせてしまうこととなり、汗顔の至りなのですが、こればかりはどうしようもない。すみませんが、しばらくはここ、聖都にておくつろぎ下さい」


 しばらくの間、待たされることとなった。

 教皇であるヘルズ様によると、当代の"預言"の巫女様が近い未来に、魔王軍の聖都への侵略を預言したのだ。

 巫女様の預言なんだけど、当代の巫女様は喋られず、預言した内容を絵に描いて伝えるそうだ。私も実際に実物を見せてもらったけれど、あれは凄かった。

 荒れ狂う牛の頭部を持った、筋骨隆々な魔族。ミノタウロスにより人々が蹂躙されている絵だった。

 今代の魔王軍で、約15年間、ミノタウロスはたった一体しかその姿を見せていない。

 そして、その姿を見せる唯一のミノタウロスが、魔王軍四天王の一人、ゼルブ・ガーレヤン。

 ゼルブは、四天王のなかでも好戦的な存在で、これまでに小国、大国含めて10ヶ国以上もの国を滅ぼしている。

 つい一年程前に、カーメライツ神聖国付近の小国が滅ぼされたばかりだ。"預言"の巫女様の預言を信じて、あらかじめ勇者である私を聖都に置いておくという判断は、国家の代表として間違った判断ではないと思う。


「でも、暇なんだよなぁ」


 私も一応上流階級の出だ。国家としての考えやらなんやらには共感できる。でも、預言を待ってはや二ヶ月。この時間があればもっとやれることがあったのではないか?勇者として、そんな思いもある。








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「ふひぃー。やっぱりお風呂は気持ちいいねー」


 鍛練を終えたあと、私は気分転換に湯浴みをしていた汗も流せるし、一石二鳥だからね。


「ん?こんな扉あったかな?」


 ふと、視界の端に、廊下の途中、端のほうにある、古びた一つの扉が映った。ちょうど影になっている場所にあって、さらに廊下をつなぐ柱やらなんやらでとても見えにくい。そんな場所にある扉が。


「でも、いくら見つけにくいとはいえ、こんなのあったら気付くよね?」


 ちょっと、見てみようかな?そう思って一歩踏み出したところで、後ろから声がかかった。


「おやぁ?勇者さまじゃないですかぁ~。こんな廊下の途中で立ち止まってるなんてぇ、どうかなされましたかぁ?」

「ぴゃぁっ!」


 突然声をかけられたことで、へんな声が出てしまった。

 後ろを振り向くと、私も前に着ていた、修道服を着た、二十代後半くらいの女性が立っていた。装飾からそれなりの高位の地位だと分かる。多分大司教。もしかすると枢機卿教皇の一個下の偉い人かもしれない。

 整った顔立ち。さらさらなブロンドヘアー。いろいろときれいな人だけれど、一つだけ見逃せなかった。

 そう、胸部メロンだ。たわわに実ったそれは、、、うん、凄い。多分、足元なんて見えないと思う。私は自分の胸を見る。ストンとしていた。足元も簡単に見える。解せぬ。


「あらぁ~。どうしたんですぅ?急に胸を見だしてぇ。気にしてるんですかぁ?だぁいじょうぶですよぉ~。エルカさまはまだ成長期じゃないですかぁ~安心していいですってぇ。、、、そうだぁ!私が良い豊胸マッサージ教えてあげますよぉ~!さあ、エルカさまのお部屋に行ってぇ。やってみましょ~」

「ふぇ?あっちょっ!私は別に気にしてなんか、、、」

「ふふふ~いいからいいから~」

「わー!!」


 この時、私は胸に気を取られていろいろと忘れてしまっていた。扉のことや、一年目とはいえ、仮にも勇者である私の背後を、このシスターは容易にとったことなど、、、

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