第十一話 キャロルという少女
「エルバス~あーそぼ!」
「キャロルちゃん。待ってよ!」
「キャハハハハ!」
とある名も無き人間の村。そこで、二人の少年と少女が遊んでいた。
乱雑に切った黒髪の少年と、八重歯の可愛い黒髪の少女。わたしとエルバスだ。
昔からの気が知れた幼馴染み。わたしたちがお互いを意識し出すのに、そう時間はかからなかった。
そんなわたしたちの関係、正しくはわたしが変わったのは、わたしに妹が生まれた頃だろうか。
わたしが、日の光に当たると、体調を崩すようになったのだ。しかし、体調を崩すと言っても多少のこと。妹の難産で母を失ったわたしの家は、休めるような状況ではなかった。だからわたしは、不調を誤魔化しながら、毎日家の手伝いに殺到されていた。
一方エルバスは、遊び盛り。わたしのことを気にかけてはいたけれど、それでも遊びを優先してしまっていた。
エルバスもその時は幼かった。それも仕方ないことなのだろう。しかし、それが原因で、わたしたちの関係の溝は深まっていった。
再び転機が訪れたのはそこから数年後。わたしとエルバスが13歳程になった頃のことだ。妹は5歳だったかな?
無理が祟ったのだろう。わたしは不調により倒れてしまった。それ以後、わたしは日中に日の光の下に出られなくなる。
「エルバス、、、ごめんね?」
「気にすんなって。日に当たってなくても、日中は体調悪くなるんだろ?俺、お前の幼馴染みだしさ、、、その、なんというか。頼って欲しいんだよ」
13歳。子供でいられる最後の年だ。14歳から働きに出るようになるから。だからだろうか。この頃から、エルバスはわたしの側にいるようになった。わたしの代わりに、家事などはエルバスが手伝ってくれていた。多分、14歳になったらあまり会う時間が取れなくなる。エルバスはそれに気付いていたんだと思う。
この、周りの同年代よりも大人びていて、わたしを大切にしてくれるエルバスに、わたしは惹かれていった。
14歳になった。この頃から、わたしは妙に喉が渇く感覚に襲われるようになった。家事やら趣味やら、そういったことに熱中している間は気にもならないのだけれど、ふとした時に喉の渇きを感じていた。
「エルバス、仕事は大丈夫なの?」
「ああ、とーちゃんもかーちゃんもまだまだ元気だしな。『家で農作業やってるくらいなら幼馴染みの様子でも見てこい!』って、追い出されるくらいだよ」
「フフフッ。そっか」
日射しが強い日など、わたしが体調が悪い日は、忙しいはずなのに、それでもエルバスは、時間を作ってわたしの様子を見に来てくれた。とても、嬉しかった。
平和な日々だった。とても、とても楽しかった。生きてて幸せだった。病弱でも構ってくれていたエルバスが大好きだった。わたしは恋をしていた。凄く好きで、それはエルバスのことを考えると心がキュンってするくらいで、悶えてて、恋しくて、、、それでも喉の渇きは、満たされなかった。日々悪化する
18歳くらいだった。その頃のわたしは日の光に触れることすら出来なくなっていた。
黒くて、エルバスとお揃いで、密かな自慢だった髪も、いつの間にか銀色に変わっていた。真っ黒だった瞳は、まるで血の様に赤くなっていた。その変化が嫌で、鏡を見ないようにしていた。今思えばちゃんと見ておけば良かった。そうすれば、
好きだったけれど、エルバスに嫌われるのが嫌で、匂いを気にして食べていなかったニンニクは、いつの間にか本当に食べられなくなっていた。好きだったはずのニンニクの匂いは、嗅ぐに耐えないものとなっていた。
日焼けを気にしてあまり外に出ない妹よりも色白い肌は、あまり気にしないことにしていた。
そして、事件は起こった。
無意識だった。わたしが気付いたのは、全てが終わってからだった。わたしはいつの間にか家を飛び出していて、村の広場にいた。見渡すと村中に火の手が回っており、そこらじゅうに血を流して倒れて村人が倒れていた。倒れていない人もいたが、何故か全員肌が
直感のようなものがささやいた。これは、わたしがやったことだと。認めたくなかった。信じられなかった。それでも先に確かめなければならないことがあった。エルバスだ。妹と父には申し訳ないけれども、この時はエルバスのことしか頭になかった。
エルバス、エルバス、エルバス、エルバス、、、。
わたしは無我夢中でエルバスの家へと走った。思い心境に対して、足取りは信じられないほど軽く、走っている最中は、自分でも信じられないような速度が出ていた。
エルバスの家へとついた。家の扉が開いている。わたしは焦りわ隠せないまま、そっと家のなかを覗いた。エルバスが、首筋から血を流し、倒れていた。エルバスの両親も倒れていたけれど、眼中になかった。ただ、エルバスが倒れていること、そして、恐らくこれを自分がやったであろうことが、それらのショックが、頭のなかを支配していた。
何で?何で?何で?
混乱の渦に飲み込まれていたわたしの思考は、ふと、エルバスの虚ろな目とわたしの目とがあったことで引き戻された。
「あ、あ、あ?、、、あ、あああああ!!!!!!」
わたしの絶叫が響きわたる。思い出したのだ。思い出してしまったのだ。全て。エルバスと目が合った瞬間、エルバスを襲ったときのことも、妹や父を同様に襲ったときのことも、村の人達を襲ったときのことも。
全て、全て。全部を思い出してしまった。
そこからの日々は、変わってしまったエルバスや家族。そして村の人達をどうにかしようと、それだけに注ぎ込んだ。
けれど、現実は無情だった。教会に助けを求めるも、わたしは異端として扱われ、呪いの子として捕らわれそうになった。他の町の人々に助けを求めるも、恐れられ、石を投げられ、教会に連行され。とにかく、人として扱われなくなった。その間に、逃げ出そうとしたときに、父や村人の多くが犠牲になった。結果、妹とエルバス、それに村人が六人。たったそれだけしか助からなかった。
だから、わたしは人間を信用するのを諦めた。人間を、わたしの喉の渇きを潤すためだけの、食料としてしか見ないことにした。
次に、魔族領へと駆け込んだ。最後の頼みの綱だった。
最初は怖かった。魔族に対して悪いイメージしかなかったから。
しかし、実際には稀有なものを見る目では見られるも、決して迫害はされなかった。意外だった。そして、これまで自分が同族だと思って接してきた人間が、どれ程愚かで、そしてどれ程醜い存在かを、思い知った。
魔族領へと来てから、2、30年が経っただろうか、もうその頃には、わたしには人間はただのエサとしてしか見れなくなっていた。
エサといっても、知能がある。わたしは、狩りをする方法を覚えた。嘲り、怒りや油断を誘う。そうすると、
わたしの種族もわかった。薄々気付いてはいたが、どうやら
歳はとっていない。ヴァンパイアはヴァンパイアへとなった年齢のまま不老となるから。わたしにとっての覚醒が、あの日だったのだろう。
わたしがヴァンパイアなのは、父も母もただの人だった事から、恐らく先祖返りなのだと思う。一番目の勇者、『至高』のレー・ゼルエート。彼女がいた時代は、まだ魔族と人間の間に深い溝はなかった。ただの戦争で、対立が深まったのはその戦争からしばらくしてからだったといわれている。恐らく、そこで混ざったのだろう。
ある日から、『魔王様が生まれた』そんな風の噂を耳にするようになった。魔王、昔は悪いイメージしかなかったが、今はそんなことはない。少なくとも、
でも、イメージがいいだけ。決して意図して関わろうと思う存在ではなかった。
転機は、ポポリアスがわたしを訪ねてきたときだろう。ポポリアスはわたしに言った。
「魔王軍に来ないか?魔王様は貴殿の武勇伝を大変好ましく思っている。条件として、世界を征服した暁には、貴殿に世界の一部を任すとのことだ。どうだ?
気付いたら、ポポリアスに差し伸べられた手を取っていた。わたしには、その言葉はとても魅力的なものだったから。
ねぇ?勇者、そんなわたしを殺せるの?勇者っていうのは、不幸な人を助ける存在なんでしょ?助けてよ。見捨てて殺すの?どうするの?
さあ、教えて?
━━━
星が貰える程魔王との決戦が豪華になります。
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