第七話 副官の計略
私、エルカは魔王軍討伐のための作戦を実行していた。
お飾りであったとはいえ指揮官不在となった魔族。多少なりとも混乱は起こっている。だから、その隙に一気にけりをつけようということになった。
作戦は簡単。私を含め、足の速い騎馬部隊を用意する。その部隊で魔族の陣営の後方に回り込み、砦に向かって全速力で魔族の軍の間を突っ切る。すると魔族の陣形はぐちゃぐちゃになる。軍全体が混乱するわけだから、指揮が通り難くなる。そこを砦から飛び出して、騎士と魔法士でかたづける。
って作戦だった訳なんだけど・・・
ザァァァァァーーーーー!!!!!!!!
ピカッゴロゴロゴロ!!!!!!!!
「これは、やられましたな」
ホーブさんが苦虫を噛み潰したような顔をしている。ホーブさんの声は、雨音に紛れないよう普段よりも大きめだ。
砦にごうごうと叩きつけるように降る雨。それにともない爆音を轟かし鳴り響く雷。
そう、この悪天候は、魔族の儀式魔法によるものだ。
先程たてていた作戦もこの雨では使えない。ぬかるんだ地面を騎兵が走るのは難しいから。魔法士による遠距離魔法も意味がない。例え届いたとしても、その頃には雨で威力は激減している。
魔族はというと、砦側に向けて盾を持った兵士でガチガチに固めている。そして、本陣は徐々に砦から後退している。
雨が止む頃には今まで魔族が居た場所にはこれでもかというほどの罠が仕掛けられており、通れない。そもそもぬかるんだ地面が乾ききっていないため進軍は難しい。そんな状況下で、魔族は幾人かの見張りを残し、睡眠魔法を使って爆睡する。悪天候での退軍の疲れを癒すかのように。
これが、ここ8日間不定期で続いている。二日間続けて雨だったこともあれば、二、三時間で止んだり。かと思ったらまた降り出したり。
攻めようにも攻められない。ホーブさんの言うように、してやられたってことなんだろう。
魔族も魔族でなにもできないけど、私たちもなにもできない。
「エルカ」
私が部屋で悶々と過ごしていると、これまた苦虫を噛み潰したような顔をしたリリアが入ってきた。
「どうしたの?そんな顔して」
「やられた。キフトムが襲撃されたそうだ」
「!?、、、じゃあ、この消極的な魔族の動きって、、、」
「時間稼ぎ、だろうな」
キフトム。ここ、コーメルム王国における主要都市の一つ。大都市が襲撃されたという事実は大きい。けれど、、、
「キフトムって、、、この国の結構内部の都市だよね?」
そう、キフトムはコーメルム王国の比較的内部に位置する都市だ。つまりは、この国の内部、かなり奥深くまで魔族が侵入しているということに他ならない。
「ああ、端的に言って『ヤバい』な」
コーメルム王国の滅亡。そんな言葉が頭によぎる。歴史上、多くの国が滅んできた。ただ、それはあくまでも『歴史』であって、私にとっては現実味のないことだった。だけど、その可能性が、限りなく高まった。
「話しは聞いておりました。キフトムへ行かれるのでしょう?この砦のことは安心してください。私めが責任を持って守ってみせますので」
ホーブさんがいつの間にか部屋にいた。
「、、、すみません、頼みます」
私はホーブさんに深く頭を下げた。不甲斐ない。私は勇者だというのに。
「リリア、すぐ準備して。急ごう!!」
「ああ、了解だ」
私は、思考を振り払い、私物を整理する。一刻も早く、キフトムへ向かうために。
「あら?私に声をかけてくださらないのは寂しいですわね。」
「ヘーネ!」
雨の中、砦を出ようとすると、馬にまたがったヘーネがいた。
、、、どうでもいいけど、ヘーネって馬に乗れたんだと思ってしまった。私は一年前まで乗れなかったから。
「私もついて行きますわ。もちろん、ホーブさんには許可を貰っていますわよ?」
「ヘーネがついて来てくれるなら百人力だよ!」
「行くぞ、二人とも」
リリアが先導し、私たちは馬に乗って出発した。国の内部、キフトムへと。
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