第八話 不穏な町

「エルカ、何か言いたいことは?」

「・・・すみませんでした」


 早朝の今、私たちはエクトという町の門外に居る。町に入るには検問を通る必要があるから、それを待っているのだ。

 で、なんで私がリリアに怒られているかというと、、、


「はあ、まさかキフトム近郊へ来るのに1ヶ月もかかるとは、、、」

「ごめんなさい」

「謝る必要はないですわ。間違ったことはしていませんもの。ただ、もう少し急いで欲しかったですわ」


 キフトムへの馬を使い潰しての急行。距離から考えて15日程で行けるところ、その倍の時間がかかってしまった。ここに来る道中、私が通りかかった町や村の人を逐一助けて回ったから。


「でもさ、見捨てられないでしょ。困ってたんだから」

「まあ、悪印象を残すよりは良かったのだろう。結果論だが、急ぐ必要はなかったのだしな」

「まさかあのキフトムが一夜にして滅ぼされるとは、誰も思いませんわよねぇ。もう少しやる気を見せて欲しかったですわ」


 そう、キフトムは私たちに情報が届いたときには、すでに滅んでいたのだ。けれど、私たちは滅んだとわかった後もキフトムへ向かった。滅んだという情報が届いたのと同時に、魔族がそこを拠点としたらという情報も届いたから。

 国の内部に陣営を形成されてしまった以上、すぐにでも討伐する必要がある。足掛かりにして王都を侵略されたら、それこそ国が滅んでしまう。そうならないために、王都から騎士団が派遣されているし、私も急行(寄り道はしたけど)してきたわけ。


「幸いなのは、魔族がキフトムから動いていないことかし「次の人!さっさと来て!」と、やっと私たちの順番のようですわね。行きますわよ」


 検問の兵士に呼ばれ、私たちは立ち上がる。キフトム程ではないけど、大都市だから入るにはそこそこ時間がかかるのだ。




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 エクトに入ると、私たちは宿に向かった。場所は門の兵士に聞いてある。


「・・・」

「ねぇ、ヘーネ。気付いてる?」

「あら?エルカもですの?この町、どこか少し空気がおかしいですわよね。」


 エクトには、昔来たことがある。宿の場所とかはもう忘れてしまっていたけど、それでもこの町が賑わっていたのは覚えている。

 それは今も変わらない。商店街は賑わっているし、町を歩く人の活気はキフトムが滅んだことを感じさせない程。ただ、昔よりも人が少ない気がするけど。

 でも、わずかなぴりぴりとした気配が、肌にまとわりつく。


「何か、ね。この街に」

「ですわね。確証はないのですが、、、」

「すまない、、、わからない。何か変な気配はしていたにはしていたのだが、これはキフトムが滅んだことでのものだと思っていた」


 成る程、リリアの言うことも最もだ。ここ、エクトはキフトム近郊。この活気も無理しているもので、だからこそ違和感を感じる。その可能もある。

 けど、何かんだよなぁ。


「じゃあさ、確かめてみよっか」

「確める?」


 ぽかんとする二人を尻目に、私は目に入っていた教会へと駆け出した。


 バタンッ


「すみませーん。誰かいますか?」


 勢いよく扉をあけ、教会へと入る。


「はいはい。どなたですかな?」

「エルカ・ノール・リレート。勇者です。こちらの二人は私の仲間ですね」

「おお!これはこれは。勇者様方でしたか。私はノーゼス。このエクトの町の神父にございます。勇者様、如何なご用心で?」

「聖水を頂けませんか?」


 聖水。それは教会の聖法によりつくられるもの。どんなに小さな教会でも、これだけは常備されている。


「かしこまりました。おい、コローネ。聖水を」

「はーい」


 教会の奥から声が聞こえてしばらくすると、聖水を持った少女が出てきた。


「勇者様!聖水です!」

「ありがとう」


 笑顔で元気に聖水を渡してくれた少女に、私は聖水をぶっかけた。ついでに神父にも。


「エルカ!?いきなり何をしているんだ!」


 リリアの焦った声が聞こえるけど、気にしない。


「ぷぁっは!な、何をなさるのです!勇者様!なぜこのようなことを!」

「何か違和感を感じたからかな?それに、やって良かったみたいだよ?」

「へ?」


 私は、うずくまる少女へと目を向けた。聖水を浴び、体から煙をあげる少女へと。


「こ、これは!?」

「聖魔法、ホーリー」


 私は、少女に向けて魔法を放った。


「うぎゃあ"あ"ぁ"ぁ"!!!!!!」


 少女は悲鳴をあげる。その口内には、二本の牙が見えた。


「吸血鬼だね」

「そ、そんな!いつの間に!!何故コローネが!」


 呆ける神父を余所目に、リリアが動き出していた。


「ふぅ。エルカ、ヘーネ。持ってこれるだけの聖水は持ってきた。この様子じゃ町中に潜んでいるだろう。回るぞ」

「「うん(ええ)!!」」


 こうして、私たちは町中を回った。加速アップテンポも使って、やっとほとんどの家を回れたという時、すでに日は沈みかけ、夜へと移り変わろうとしていた。







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「あは☆予想外の想定外☆まさかばれるとはね~☆私の町中眷族にして一気に襲っちゃおう作戦はだぁいしっぱぁい☆でもさ、でもさ。勇者ちゃん、一日中走り回って疲れただろうね~☆この後襲ったら、凄く喜ぶだろうね☆だからね☆襲っちゃう☆さぁさぁ勇者ちゃん。私のために、死んでね。キャハ☆」















 夜。悪夢吸血鬼の時間がやってくる。




━━━

キャロル・エンピローサ

筋力 C 耐久 B 俊敏 A 器用 A 精神 S 魔力 B


吸血鬼

血を吸うことで眷族を増やす。眷族は主人の能力の一定値以上の力をつけることで眷族から抜け出せる(任意)。吸血鬼の中には、眷族から魔力を奪える者もいる。十字架等神聖なものと、銀とにんにくが苦手。特ににんにくが嫌い。どんな高位な吸血鬼でも逃げる。無理。意外と知られていない。

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