第二十三話 ドジっ子メイド

「…………じぁ…………へーちゃ………………しゅほ………………行き…………………い………………」


 魔族の砦に着いた後、ヘンゼルさんはボソボソっと一言喋り、そのままばびゅんと走っていってしまった。

 もともと砦に着いたら二手に別れるって作戦だったから良いけど、もう少し大きな声で言ってくれるとわかりやすいんだけどなぁ。


 まぁ、良い。ヘンゼルさんのことだし、しっかりと主砲を破壊してくれるはず。私は自分のやるべきことだけを考えよう。


加速アップテンポ20トゥエンティ


 一気に加速して、砦の中を駆け巡る。目標は四天王のポポリアスの討伐。天才軍略家の彼女に戦場を荒らされれば人類は大きな被害を受ける。そうならないように、砦に留まっている今のうちに倒す。


「勇者だ!」

「侵入者だー!!ポポリアス様の下へ行かせるな!!」


 砦の中を駆け抜けていると、幾度か見つかった兵士から伝わったのか、私を包囲するかのように兵士が集まってくる。

 私の筋力と技量じゃすれ違い様に兵士を倒していくのは無理だから放置していたのは事実。それでも、存在が伝わって包囲が始まるまでの時間が早すぎる。


 でも、この程度なら大丈夫。5、6人の兵士で道を塞がれているけれど、加速アップテンポの速度と砦の天井の高さからしてギリギリ飛び越えられる程度の隙間はある。


「追え!追い付けずとも包囲を崩すな!!」


 先ほど飛び越えた兵士の叫び声を後ろに、私はポポリアスの下へと走った。


















 ─────────────────────


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、、、」


 ヘンゼルさんと別れてからもう20分。私はやっと迷路のような通路を駆け、魔族兵の包囲を抜けることができた。


「ここが、執務室?」


 目の前には今まで見てきた砦の扉よりも数段豪華な扉がある。権力者が力を示す為に、身の回りを着飾ることは良くあること。ポポリアスも例に漏れなくそうなのだと考えれば別に変なことじゃない。

 でも、策士として名高いポポリアスがそんなことをするのかな?私のイメージでは、ポポリアスは回りに紛れるように敢えて地味な装飾か、もしくは一切装飾のない扉を用意すると思っていた。だから、私は道中見つけたすべての扉をしらみ潰しに開けて確認した。

 それなのに、何処にもポポリアスは居なかった。

 砦に入った以後動いていないことはわかっているから、ポポリアスが砦の中にいることは確かなはず。人相も割れているから今までの兵士に紛れているとも考え憎い。何より女性の兵士は居なかった。


 なら、この扉の向こうにいることは確実。なのに扉の前護衛の兵士はいない。考えられるとすれば、罠しかない。


「こっちだ!勇者はこっちへ向かった!!」

「っ!」


 迷っている時間はなくなった。兵士の声が聞こえてきた。これ以上もたもたしていても、兵士に追い付かれて多勢に無勢で押し切られるだけ。一か八かで扉の向こうにいることに賭けるしかない。

 鍵がかかっていないことは確認済み。私は意を決して扉を勢い良く開けた。そのまま素早く身を滑り込ませて扉を閉めて鍵を掛ける。


「勇者エルカ様、お待ちしておりまし、、、うわぁぁぁ!!??」


 果たして部屋の中には反対側の扉に背を向けて私にお辞儀をしようとした獣人のメイドがいて。そのメイドは何もない場所に足を取られて転んでいた。














「えいっ!えいっ!えいっ!えいっ!」


 掛け声と共に獣人のメイドが私に高く積まれたお皿を投げてくる。恐ろしいのは、メイドが投げたお皿がすべて。怖いからだと思うけど、メイドは目を閉じている。私にお皿を投げるときだって。

 それなのに、私が進もうすれば目の前でお皿が割れて下ろそうとした足の真下に、カーペットに絡まった破片が足に突き刺さるようにして散らばる。壁に当たったお皿は何故か破片が勢い良く飛んで目や口の中に刺さりそうになる。無視して進もうとすれば何故か靴を破片が貫通する。


「何で、獣人が魔族の配下にいるの!」


 獣人は人類の一種。それなのにどうして魔族の側に立ち、勇者の邪魔をするのかが理解できなかった。


「魔族の皆さんは、私たちからご飯を奪いません。魔族の皆さんは、私たちに辛い仕事を無理にさせようとしません。魔族の皆さんは、私たちを見下しません!変な目で見たり、差別したり、そんなことしません。教会の人たちは、浄化だって言ってお父さんとお母さんを殺しました。ポポリアス様は、そんなこと言いません。そんなことしません。私に優しくしてくれます」

「それは騙さるんだよ!利用されているだけで」

「騙されてても良いです!利用だってされても良いです!ポポリアスさま私たち獣人を失敗作だなんて呼びません!私を私として見てくれます。それだけで私は充分です!」


 カーメライツ教の教義では、獣人を人類の失敗作だと説いている。人と獣のなり損ない、それが獣人だと。

 そんな背景があるものだから、獣人は不当な差別を受けることが多い。このメイドもその被害者なのだと思う。

 だからといって魔族と共に人類に敵対する気持ちは私には理解できないけれど、このメイドの歩んできた人生を知らない私が何か言う資格はない。


「でもやっぱり魔族に付くのは理解できない!魔族は散々人類を危機に晒してきた。それなのに、恐ろしいとは思わないの?」

「ないです!私は、私を差別した教会の、人類のほうが恐いです!!」


 話は並行線。埒が明かない。説得したいとこだけれど、私には彼女の意思を変えられる気がしない。だから、


「ごめん!『加速アップテンポ50フィフティ』!!」


 だから、説得は諦める。

 人類と敵対した獣人。このまま連れて帰れたとしても、差別か反感しか待っていないと思う。だったら、ここで後々苦しまないように殺してあげるのも1つの優しさなんじゃないかな。


 一気に踏み込んで、メイドに向かって跳躍する。お皿が飛んでくるけれど、お皿が割れて飛び散るよりも、私が走る速度のほうが早い。


 刺突。非力な私が、一番医療を出せる技。構えた剣は、勢いそのままにメイドの胸を貫いた。


「ぐ、ぱっ!!」


 メイドが血を吐いて、それが私にかかる。位置からして、心臓に直接突き刺さったのだと思う。じわじわとメイド服が赤く染まっていく。

 でも、私にはそれらを気にする余裕なんてなかった。何故なら。


「べほっ、、、痛いです。でも、やっと捕まおぇ、、、捕まえました」


 私は今、メイドに剣を突き刺した態勢のまま抱き締められている。剣がさらにメイドにめり込む程の力で抱き締められているせいで、抜け出すことももう1つの剣を抜くこともできない。


「死んで、、、げほっ、、、ください。ポポリアスさまのげぼっ、、、為に!!『神よ人生最大たるデッド・エンド不幸を今ここに・ハードラック』」


 ピシッ!


 天井から変な音が聞こえ、私は弾かれるようにして上を向いた。

 そこには、突き刺さったお皿の破片を中心にひび割れ、今にも崩壊しそうな天井があった。


「いっしょに、、、げほっ、、、死んでください」

加速アップテンポ──────」


 天井が崩れ、ついでとでもいうように周りの壁も一斉に崩れ、私たちに降注いだ。




━━━

アーメイ     メイド

筋力 A 耐久 S 俊敏 B 器用 D 精神 B 魔力 E

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