第二十二話 迫る弾丸
「ぽ、ポポリアス様!紅茶ですぅわぁ??!!」
魔族の砦の執務室。魔王軍四天王であるポポリアスの部屋で、ポポリアスへと紅茶を運んできた獣人のメイドが転んだ。
ただ転んだだけならばまだ良い。カーペットはずぶ濡れになるがそれだけだ。だが、このメイドはそれだけでは終わらない。
転んだ拍子に零れたティーポットの中の紅茶は意味もなく机の上の書類にかかり、ポット本体はくるくると宙を飛んでメイドの頭に激突する。挙句の果てにはポットの蓋が大きく飛び、ポポリアスの頭へポスッと乗った。その蓋に付着していたのか紅茶がポポリアスの頭から垂れてくる。
「・・・」
「も、もももも申し訳ございません~~~~!!!!」
メイドは全身全霊で土下座した。
「アーメイ、私は怒ってないよ」
「ぽ、ポポリアス様ぁ」
ポポリアスはハンカチで紅茶を拭いつつ、メイドへと微笑みかけた。
メイドはポポリアスの慈悲に感激し、むせび泣く。
メイドがポポリアス直属となってから、毎日のように見られる光景だった。
「その代わり。その代わりだアーメイ。その不運、私のために役立ておくれ」
「は、はい!もちろんですポポリアス様!!、、、ですが、本当に勇者エルカはこの砦までやって来るんですか?」
ポポリアスが直々に言ったこととはいえ、メイドにはにわかに信じがたいことだった。いくら勇者と言えども、この砦の集中砲火を乗り越えられるとはメイドには思えなかったのだ。
何せ、この砦はポポリアス直々に、数十年の時をかけて設計から建設まで行ったものなのだから。
「言いたいことはわかる。私を信じてくれているアーメイのことだ。どうせ私が作った砦を越えられるはずがないとでも思っているのだろう?」
「はい!!」
「だがなアーメイ。勇者エルカならばこの砦まで来ると予測したのも私だ」
「それは、そうですが、、、」
メイドはしゅんとする。心なしか頭上の耳が垂れ下がる。
「過去の私と、今の私であれば、基本今の私が正しい。持つ情報量の差だな。過去の私は勇者が教会に洗脳されるなど思いもしなかった。余計なことを吹き込まれるなど知りもしなかった。そこが運命の分かれ目だ」
「? そんな多少の言葉で違うもの何ですか?」
メイドは首をかしげる。
「もちろんだ。見ろ、アーメイ。そのせいで勇者は二倍も速くなった」
─────────────────────
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ?いやいやいやいやいやおかしいよねへーちゃん知ってるよ勇者エルカの最高速度何せぐねぇが間近で見てるんだもんねなのにさおかしいよねたった数ヶ月でこんなにも変わるものなのかな酷いよね理不尽だよねこれが勇者ってやつかって感じだよねへーちゃん今この世の不条理ってものの鱗片を味わってる気分だよ知らない知らないこんなの知らない教会の奴らは何も言ってなかったってあーちゃん言ってたよ想定外?現場にそういうの持って来ないで欲しいよねほんと嫌気が差すよね煩わしいよねやめて欲しいよね」
「あの、ヘンゼルさん。大丈夫ですか?」
ガンガンと砲弾を大鎌で弾いて走り続けるヘンゼルさん。危なげなく処理してるから大丈夫なのだろうけど、下を向いてぶつぶつと呟く姿を見ていると心配になってしまう。
「ふェ………………………………ァッ……………………………………………つぁい………………………………………………」
「って危ない!?」
喋りかけた途端突然固まってしまったヘンゼルさん。私は慌ててヘンゼルさんを引っ張り砲弾の軌道上からどかす。
「ぅわ……………………たま…………………で……………………しいで………………………すぅ………………………………………………」
またちゃんと走れるようになったヘンゼルさんが何か言っている。けど、風の影響もあるのかあまりよく聞き取れない。
「ヘンゼルさん、もう少し大きな声で言って貰えるかな?」
「スゥ………………………………………………………………………」
「ヘンゼルさん!?」
すると、ヘンゼルさんは息を大きく吸って動かなくなってしまう。
、、、こんなやり取りが、砦の中に入るまでにもう数回繰り返された。
━━━
エルカ・ノール・リレート
筋力 B 耐久 C 俊敏 SSS+ 器用 A 精神 A 魔力 A
天啓『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます