第二十一話 死神の家系

私が洗脳されてから2ヶ月。人類と魔王軍との最前線、ナトへとやってきた。

 魔王軍を相手に私たちは今まで後手に回ってきた。魔王軍は強くて強大で、特に四天王にはいくつもの国を滅ぼされた程。

 中でも厄介だったのが、ナトに建設された多数の砲台を持つ砦。この砦のせいで、人類はここから先の魔族の領域に一歩たりとも踏み入ることができて居なかった。


 どのくらい凄いかって?そうだなぁ。主砲は最大5キロにも及ぶ射程を持っていて、ここでの戦闘で死神、グレーテル・ナハトムジークは死んだって言ったら、、、どのくらいかわかると思う。

 うん、私もびっくりした。数ヶ月前のゼルブとの戦いであんなにも助けてくれたグレーテルさんが、呆気なく死んでしまったから。


「……………………ああ死ぬんだへーちゃんは死ぬんだぁそりゃそうだよね次はへーちゃんだよねグねぇが死んだんだもんわかってるわかってるよわかってても心の準備ができてないことはわかって貰えなかったけどね。ははは。それよりもさ、へーちゃんまだ初めての戦場なんだよなんでグねぇが死んだ戦場に派遣されるの普通もっと簡単なとこからだよね村を襲うゴブリンとか………ぁっだめゴブリン怖いへーちゃん襲われちゃう嫌だゴブリンは嫌だよねじゃあ戦場?そっかあの人たちも妥協してくれてたんだねそれじゃあこの戦場なのも仕方な…………くないよ?だめだよねへーちゃん死んじゃうグねぇみたいに派生技なんて使えないしそもそもまともな虚断使えたことも少ないっていうのになんでこんなことするんだろうね勇者のサポート?必要ないよねへーちゃんグねぇみたいに強くないしカッコ良くないし人前に出られないし惨めだし哀れだしザコだし弱虫だし泣き虫だし運動音痴だし…………あっなんだかお腹が痛くなってきたこれは駄目なやつだよね万全な状態じゃないといけないもんねだから今日のところはお休みにしてまた明日そうまた明日の気分と体調が良いときにしようよそうだよ魔族の重要拠点なんだもんね仕方ない仕方ないてことでどうかなアルマさんほら勇者さまも来たばっかりなんだし漸く休んでもらってさそれからにしようよやっぱり体調ってだいじだしあー残念だなぁほんとはへーちゃん人類のために砦を攻略したかったんだけどなぁしょうがないしょうがないよね」

「もーへーちゃん、ボソボソ言ってちゃ聞こえないよ?しっかり!大きな声で!」

「……………ァッ…………………スゥ………………………………………………」


 次代の死神、ヘンゼル・ナハトムジーク。グレーテルさんの妹で、共和国の死神の名の後継者。ボソボソと常に何か言っててなんだか不安になるけど、この砦の人たちの雰囲気からして既に共和国の死神として認められているのがわかる。私も道中にさんざヘンゼルさんの活躍は聞かされていたりする。


 怯えつつも駄々をこね続けるヘンゼルさんを眺めていた私の元に、沢山の勲章を着けた軍服姿の人がやって来た。


「勇者エルカ。よく来てくれた。私はこの砦の総司令官のラート・ラクターナ・ド・ニアルフだ」

「エルカ・ノール・リレートです。よろしくお願いいたします」

「よろしく頼む。して、来て早々で悪いのだが、これより一時間後にヘンゼルと共に魔族の砦を襲撃して貰いたい。四天王ポポリアス・サンジェクトロは非常に優秀な指揮官だ。ここで君の到来に気付かれれば恐らく完璧に対処されることだろう」

「了解しました」


 ポポリアス。今までの戦場で何度も耳にしてきた名。私にとって印象深いのは、初めて立った戦場の敵の副官。彼はポポリアスの弟子だって聞いたことがある。

 勘づかれれば、非常に厄介なことになる。だから、速攻で仕留める。


「あの、私も今回の襲撃に参加しても良いでしょうか?私は回復魔法も使えますし、いざというときの保険として、、、」

「駄目だ」


 声をあげたヘーネの願いは、ラートさんに一蹴された。


「聖女ヘーネ・フランペチカ。君の回復魔法が優れていることは重々承知だ。その上で言わせて貰う。足手まといにしかならない。魔族の砲撃から逃れるには、勇者エルカのような圧倒的な速度か、死神ヘンゼルのような跳ね返す膂力が必要となる。君では、いい的になって終いだ」

「、、、では、せめて治療の手伝いを」

「報告は聞いているだろう。不要だ。。申し訳ないが君に出来ることは何もない」


 ヘーネは唇を噛みしめてうつむいた。手が凄い力で握りこまれている。

 なのに、私は何もできない。どう声をかけてあげれば良いかもわからない。今までも、洗脳されたときも支えてくれた仲間なのに。どうしようもなく、恥ずかしい。


「落ち込んでいるところ申し訳ない。今は一刻を争うのだ。済まないが、襲撃の準備に取りかかって貰いたい」

「は、はい」



















 数十分後、私と嫌がるヘンゼルさんは、人類側の砦の外。魔族の砦の方向へと足を踏み出し、横に大きく跳ぶ。

 瞬間、さっきまで私が立っていた場所を魔砲弾が通り過ぎる。

 そう、彼我の砦の間の距離はちょうど5キロ。砦を出た瞬間から、魔族の射程圏内なのだ。




━━━

ヘンゼル・ナハトムジーク 女  共和国の死神


筋力 SS 耐久 SS 俊敏 S 器用 B 精神 D 魔力 B


備考『コミュ症』



ヘーネは自分の中の『継承』について気付いていません。基本『継承』は無意識か『継承』の総合意識が発動しています。

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