第二十四話 愚痴
ガラ、ガラガラガラ、、、
一面に積もる瓦礫の山から、メイド服をまとった少女が立ち上がる。
全身血塗れで、右腕は関節とは逆に曲がっている。立っているのもやっとという風体だ。
「ポポリアスさまに、、、褒めて貰わ、、、ないと」
それでもメイドは歩き出した。頭から滴る血で良く見えない視界で。一見異常は見当たらないのに何故かうまく動かない足を引きずりながら。胸に突き刺さった剣もそのままに。
メイドはわかっている。自分がもう長くないこと位は。持って数分。早ければ次の瞬間にでも倒れそうなことなど。
それでも足を進める。最後に、自分の主人に褒めて貰おうと。
だが、それは叶わない願いだ。
ガラガラガラ、、、
「あっ、、、」
後ろで瓦礫が崩れる音を聞いたメイドは察する。そして、力を振り絞って振り向いた。
メイドが自分の意思で動けたのはそこまでだった。
メイドは自分の偉大なる主が言っていたことを思い出す。
「今代の勇者は歴代で最も勇敢な勇者と語り継がれるはずっだった。だが、そうはならない。何故か?勇者にエルカが成ったからだ。妹の方であればどうとでもなったものを。エルカが成ったからだ」
そして、ポポリアスはこうも続けた。
「だから、キャロルには先発を任せた。ゼルブには無能な副官を与えた。シュペレッタには娘を戦場に寄越した。全てはエルカに名声を遺させない為。全てはエルカに最弱の異名を被せる為。全ては、後世エルカを覚醒させない為。アーメイ。すまないが君にもその礎になって貰う」
メイドは、何故主人がこうもエルカを恐れたかを理解した。戦闘中では感じなかった恐怖を、今ここで感じた。
「この、化け物め」
メイドは最後に主人の顔を見ることも叶わず倒れた。絶望してしまったのだ。
そのまま、息を引き取った。
メイドが最後に見たものは、天井の崩壊に巻き込まれ見るも無惨な姿となったエルカの体が、高速で回復し続ける姿だった。
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「
そう思うだろう?というポポリアスの視線を、
「メイドを死地に追いやって、自分は奥でのんびり紅茶を飲んでいる。私、ポポリアスっていう四天王を高く見過ぎてたよ」
「ふむ。私もアーメイと共に戦う、もしくは私が戦いアーメイを下がらせていれば、君の期待に添える優秀かつ高潔な四天王として散ることができただろう」
ポポリアスは紅茶を口に含み、続ける。
「だが、それではいけない。君の印象に残らない。私のせめてもの願いも叶わない」
ポポリアスの目的は、
もしエルカが他に目をつけてしまった場合、十中八九エルカは次の魔王誕生までに魔族の半数以上を惨殺する。できるという自信がポポリアスにはあった。だから、なんとしてでもそれだけは阻止しなければならないのだ。
せめてもの願い、魔族の存続の為に。
「これから吐くのは私の君に対する愚痴だ。聞いてくれれば嬉しいし、聞いてくれなくても構わない」
ポポリアスは上着を脱ぎ捨てる。武器を隠し持っていないということをエルカに示す為だ。そのため、服も体のラインがくっきりとわかる、隙間のないものを着ている。
「全ての歯車が狂ったのは君が勇者になった時からだ。私は今代の勇者は君ではなく他の者が選ばれると思っていた。君にも理由はわかるだろう?エルカ・ノール・リーレト。自覚はあるだろうが君にはあまり戦闘の才はない。はっきり言って眼中にもなかった。
ほぼ確実に現状名のある戦士が勇者へと選ばれ、最悪でも君の妹が選ばれると踏んでいた。それならばどうとでもなったものを。君が選ばれてしまった」
ポポリアスはため息を溢す。
「君が選ばれたせいで、キャロルが人間への未練を裁ち切れなくなった。吹っ切れさえすれば並みの者なら軽く殲滅できる実力があるというのに。
最悪、君の妹が選ばれていたとしてもキャロルにはエルバスがいた。現在の五番目ならば倒せる程度の実力を持つ吸血鬼がいるんだ。キャロルがなりふり構わなければ彼は必ず戦地にたった。だというのに」
紅茶の入ったカップが揺れる。その水面に映るポポリアスの表情は、どこか悲しげだ。
「他の者だってそうだ。ゼルブはあの巨体でありながら軍の指揮の方が得意という奇特な奴だ。私の育てた指揮官数名を送っていれば、本来であれば今の5倍は国を滅ぼせただろうに。
シュペレッタには悪いことをした。私が事前に魔王国ないで権力争いの火種など作らなければ、彼女の娘はぬくぬくと優秀な父親の元で過ごせ、彼女自身は思う存分に魔法を放てたろうに。」
「それって全部、貴女たちの都合だよね。それに、原因をつくってそうならないように仕向けたのはポポリアス、貴女でしょ。私にその責任を押し付けないで」
エルカの反論に、ポポリアスは黙る。
そして、しばらくした後に口を開いた。
「そうだな。その通りだ。私の責任だ。償いになるかはわからないが、私は特攻するとしよう。最後に、私は勇者が君でなければ魔王様がこの大陸を支配できると思っていた」
ドォォォォン!!!!!
爆音を発し、エルカごとポポリアスの執務室が爆発した。
早口で捲し立てたポポリアス。圧倒的な知略を持つはずの彼女は、その才を完全に発揮する前に自爆によって死亡した。
─────────────────────
ドサッ、、、
魔王国の連合ギルドにて、1人の男が膝から崩れ落ちた。両目からとめどなく涙を流す男の手には、一通の訃報が握られていた。
多くの職員が彼に駆け寄ってくるが、彼がそれに気がつく様子はない。一向に涙を流したまま、その場から動こうとしなかった。
「パルツペトス様。こんな時間に荷物をまとめて、どこへ行くつもりですか?」
1人の受付嬢に呼び止められて、コートを羽織った男は立ち止まった。
「驚いた。君こそどうしてこんな時間まで残っているのかな」
現在の時刻は午前2時。職員は皆とうの昔に帰宅しているはずだったから。
「あんな姿を見せられておいそれと帰れるはずないじゃないですか」
男、パルツペトスはあの後、しばらく呆然とした後に何事もなかったかのように仕事に戻っていた。
ほとんどの職員はそれで安心し、一部の職員は不安に思いながらも帰宅していた。ただ1人を除いて。
「、、、奥様と、娘さんに何かあったんですよね?」
「良く気がついたね。その通りだよ」
受付嬢の問いに、パルツペトスは悲しげに答えた。ただ、受付嬢は彼の瞳に途轍もない憎悪と決意が宿っていることに気がついた。
「シュペレッタは戦死。ナタルティーナは行方不明だそうだ。ただ、ナタルティーナの護衛として共に逃げていた将軍の死体は見つかっているから、、、期待はできないだろうね」
「だから、復讐の旅に出るんですか?」
受付嬢の言葉に、パルツペトスは目を丸くする。
「分かっていたのか。それではお願いだ。ギルドの皆には勝手に消えてすまなかったと伝え」
「嫌です」
「、、、て、くれないのか」
パルツペトスの願いは、受付嬢に一刀両断された。
「パルツペトス様は、弱いです。クソザコです。今まで生きてこられたのは、場所が街で、達者な口が役に立つ場所だったからです。1人で旅になんて出たら、数歩もしないうちに野うさぎのエサです。だから、」
受付嬢は数回大きく深呼吸をし、続ける。
「だから、私もついて行きます」
受付嬢の言葉にパルツペトスはまたも目を丸くし、そして微笑んだ。
「そうか。それではついてきておくれ、リリム」
「はい!」
後世この連中に人類が滅ぼされかけることになるが、、、まあ些細なことだろう。
━━━
『連合ギルド』
魔王国内の全てのギルドを吸収し、1つとなった存在。このギルドの決定次第で、魔王国の経済が変わった。
なお、たった一人の男に、たった10年程で造り上げられたこのギルドは、ギルドマスターであるその男の失踪と同時に瓦解した。
ポポリアス・メーラー 魔王軍最後の四天王
筋力 E 耐久 E 俊敏 E 器用 S 精神 S 魔力 A
パルツペトス・パルサーネ 後世の魔王
筋力 F 耐久 C 俊敏 F 器用 SS 精神 SS 魔力 A
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