七番目の勇者

芝ッフル

プロローグ

プロローグ 七番目の独白

 勇者、それは絶対たる人類の希望。崇められるべき至高の英雄。




 勇者が始めに現れたのは、今から1201年前のことです。

 当時、世界の約四割を支配していた魔王。人類を滅ぼし、世界をその手中へ納めんとした存在。当時、人々はその脅威に怯え、震えながら生活していたそうです。

 そんな中、神より天啓を受けた、一人の少女が立ち上がりました。そう、始まりにして最強の勇者、『至高』のレー・ゼルエート様です。

 ゼルエート様はたった一人で魔王へと立ち向かい、そして、打ち勝ったのです。いまだに伝説として語られる彼女の偉業は、今なお人々の心を震わせています。

 曰く、たった一人で飛竜の巣へと潜り込み、さらわれた少女を救いだしたとか。曰く、たった10名で3日間に及ぶ街への魔王軍の進行を止めただとか。曰く、無傷で四天王を全て倒しただとか。彼女の武勇伝には事欠きません。


 二番目の勇者が現れたのはそこから192年後のことです。その時も新たなる魔王に侵略され、人類は危機へと陥っていました。

 そこで現れたのが二番目の勇者、『万展』のハイン・リレイグ様です。彼も様々な偉業を成し遂げていましたが、それでもゼルエート様の偉業には一歩劣ります。


 三番目の勇者が現れたのはその205年後です。またも魔王に侵略される人類に、神はやはり救いの手を差し出したのです。

 三番目の勇者、『冷酷』のロンド・ハート様。稀代の女好きにして、最愛の女性にナイフで刺され、最後を遂げたことで有名な方です。

 また、勝つ為にはどんな方法でも厭わないことでも有名な方です。有名なものでは、当時四天王であった女性をろう絡し、同じ四天王であった方を二人殺させたことでしょうか。人類側、魔族側共に衝撃的な作戦でした。

 ハート様、一番の功績と言えるのは勇者には、天啓とも天凛ともいえる能力を、神から授かる。この事実を後世に残したことでしょう。以来、その勇者に最も適切なサポート、戦闘方法の模索などが可能になったのです。

 因みに、ハート様の天啓は『液体の温度を操る』というものだったそうです。


 四番目の勇者が現れたのは、そこから245年後のことです。

 四番目の勇者、『皇王』アンハレンス・サー・シノバルド様。彼は歴史上唯一確定している《王族》出身の勇者です。当時第三王子であったシノバルド様は、教会、自国軍、他国軍による連合軍を率いて魔王軍を退けました。天啓であった『威圧』を用いて戦うその姿はまさしく王であった、と今も伝承に残る偉大なるお方です。


 しかし、その後、雲行きが怪しくなります。五番目の勇者が現れたのは、その163年後のことです。

 五番目の勇者、『絢爛』のロスタント・シン・カシスタリマ様。彼の能力は『不明』であるとされており、また、その偉業も定かではありません。ただ、彼に関して言えるのは勇者誕生より147日。史上最も速い魔王討伐であった、ということです。


 六番目の勇者が現れたのは今から197年前のことです。

 六番目の勇者、『狂乱』のレザー様。彼の能力は『因果』、史上最も危険な能力であったといいます。

 魔王討伐当初、人類が沸き上がる中発表された勇者の名前は『豊善』のサタストル・レース・ジスターボ様でした。しかし、先程も申したように本来の勇者は『狂乱』のレザー様です。つまり、王族は勇者の手柄を奪い自ららの栄誉にしようとしたわけです。

 その事に関して、レザー様は特には何も感じてはおられなかったようです。彼は名前からもわかるように、名字がない、つまりは孤児、それも出身はスラムだったそうです。そんな彼の感覚からすれば、名誉だのなんだのは王侯貴族によって奪い取られるもの。そういった認識だったようです。

 彼にとって名誉だとか名声だとか、そういったものは必要なくただ妹と二人、静かに幸せに暮らせれば良かったのだそうです。そして貴族は、そんな彼の怒りの琴線に触れるどころか、引きちぎったのです。

 王城より、汚らわしいものとして追い出された彼を待っていたのは、荒らされた部屋とそこに転がる冷たくなった妹の死体でした。彼の心を怒りが駆け巡るなか、貴族の暗殺者によってレザー様は襲撃されます。

 そして、そこからが彼が『狂乱』などと呼ばれる所以となった出来事が起こります。殺された最愛の妹、誰の仕業かありありと分かる暗殺者の襲撃。彼はそこで復讐にでました。

 先程も言ったように、彼の天啓は『因果』。あらゆる因果を操作する能力です。彼は、『家族が奪われる』という因果を、に与えたのです。それにより彼のいた国の王侯貴族の殆どは跡継ぎが死んでいったことで、国全体が大幅に弱体化した状態となりました。更には、追い討ちを掛けるように、現時点での国の状態を隣国にリークしました。そして、レザー様は自殺により、国民全体に『苦しみながら死ぬ』という因果を与え、この世を去ったのです。

 これがレザー様が『狂乱』と呼ばれる所以であり、五番目の勇者様がという疑問を後世に残した事件です。




























 そして、そこから197年後の今日、私が、勇者に選ばれました。









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