第十五話 戦況

 こりゃ、負け戦だな。俺が最初に浮かんだ感想がそれだった。

 俺はリ・ベステール王国の騎士だ。軍団長だから、そこそこ偉い地位に居る。因みに、の一人だ。

 ずいぶんと期待されてたんだがなぁ。どうにも、現実ってのは上手くいかない。まさかまさかどこぞの聖女候補が勇者になるとは。

 おかげで俺は散々だ。国のお偉いさん方には白い目で見られるわ。回りの連中もどこか微妙な空気で接してくるわ。ほんと、いたたまれないもんだ。


 さて、俺の立ち位置は置いとくとして、今の戦況だ。

 戦場はカーメライツ神聖国の大都市、ヘプラッタ。籠城戦。都市の防壁は高さ約5メートル。門は正門と左右に二ヶ所の計三ヶ所。あまり籠城に向いているとは言い難い造りだ。

 俺らの軍は混合軍で、全体としての錬度は低い。総数は約25万。援軍としてもう30万程いるが、到着までの時間を鑑みると期待はできない。

 魔王軍は大型種を中心として、全体的に大柄の魔族で構成されている。総数はだいたい14万と少し。先だって討伐されたのは大型種の中でも比較的知能や身体能力の低い種であり、進軍速度のために犠牲にされたと思われる。よって残っているのは錬度も高く知能もあり、実力もある魔族が大半。が、大型種の特性的に魔力が低いため、魔法はあまり注意は必要ないと考えられる。

 総軍共に言えることは兵站の問題。こちら側は籠城するために計画的に溜め込まれていた食料があるとはいえ、25万もの兵を養い続けるのは心許ない。魔王軍は大型種が大半であり、その分多くの兵站が必要となる。従って短期決戦が望ましいものとなる。多少兵を潰しでも進軍を速めたのはこれが原因だろうな。

 総評して言えることは、、、詰んでんな~ってとこだ。こちらに勇者がいるとはいえ、相手にも四天王が居る。さらには勇者は神官生まれの細腕の生娘ときた。そも、剣が魔族に刺さるかすら怪しい。

 援軍として俺がこの都市に来た時点ですでにふらふらだった事から、本人なりに勇者として頑張ってくれては居るんだろうが、役不足だ。

 四天王の吸血鬼を倒したらしいが、たまたま得意とする魔法が有効だっただけだ。今回、ミノタウロスを含む大型種の魔族に、聖魔法はあまり効かない。他属性の魔法やりも攻撃手段が少ないことも考えると、不利でしかない。

 いやぁ清々しい程の負け戦だな。勝ち目が見当たらん。

 本気で勝つならば、各都市で地道にちまちま削っていって、聖都で迎撃ってのが一番勝率が高いが、カーメライツ神聖国宗教国家的に信徒を犠牲にする方法はNGだ。

 あーあ。教会の上層部の奴、派遣してくれねぇかなぁ。くれねぇんだろうなぁ。出てきたらこの程度の逆境だったら覆せるだろうに。

 っと、そんなことを考えていたら後ろに気配が、、、って、うっすいな。素人の癖にそこそこレベルの高い隠密をするなよ。


「誰だ?どこの国のお偉いさんかは知らないが、軍の代表の後ろに気配隠して立つのはマナー違反が過ぎるぞ」

「あっバレた~?」


 後ろを振り返ると、紫のローブをまとった、先端に赤い宝珠をつけた長い杖を持った女が立っていた。その胸にはキラリと光る菱形の魔石ネックレスとしてぶら下げられている。

 おいおい、よりによってマルクシナ魔導連邦の奴かよ、、、


「いや~そんな露骨に嫌そうな顔すんなよなぁ。嫌われてる自覚があるとはいえ、私らだって傷つくんだぞ~?うりうり~」


 自覚あるのかよ。


「あっ今自覚あるのかよって思ったでしょ。でしょ!?わかるよ~そんくらい。なにせ顔に書いてあったからね~。ふっふっふ~」

「あーハイハイ。ソウデスネソウデスネ。凄い凄い」

「ぐわぁ!ムカつくぅ~!!」


 適当におだててやると、女は地団駄を踏む。うむ。少しだが気持ちが晴れた。


「てか、自覚があるなら改善すればいいだろ。なんだ?対人関係に回す時間があれば魔法に費やすってか。もったいないな」

「トップがアレだからね~。どうしようもないんだよ。なんなら革命手伝ってくれる?そこそこ利益は渡すからさ~どっか適当に各国誘ってよ。なんなら傀儡政権になってもオーケーだぜ?」

「んなこと誰がするか」


 魔導連邦のトップの四兄弟。あいつらに敵対しようとするバカはいつの時代かもわからん勇者様一人で十分なんだよ。

 六番目の勇者の時、アルカナンマークIとかいう実験台一体放って国五、六個滅ぼしといて「メンゴ!」の一言で済ませようとするような魔王より魔王してるような奴らだぞ?わかってんのか。


「、、、、、、、、、、、、、、、陽が匂う。気持ち悪い、、、、、、、、、、、、」


 ボソッと、後ろから聞こえたささやき声に、俺と女は同時に振り向く。


「、、、、、、、、、、、、、、、此方こなたは、、、、、、休んでくる、、、、、、、、、、、、」


 顔色の悪く、目付きも悪い、14、5歳程の見た目の少女が立っていた。

 クリーム色の髪。猫背で常に下に向けられた視線。覚束ないように見えて、基礎はガッチガチに固められていることがわかる足取り。背中に背負われた大鎌。間違いない。共和国の死神、グレーテルだ。


 ゆっくりと、今居る高台から階段へ向けられていた足取りが、突然止まった。そして、膨大な圧と共に、その相貌がこちら側へと向けられる。


「、、、、、、、、、、、、、、、なあ、、、、、、、何で、、、、、、何で初対面の人間と喋れるんだ、、、、、、?」


 、、、そんな質問?俺としては何かしらの警告でも与えられると思っていたんだが。


「え、えーっと。ぐ、グレーテルさ、様?も、喋りたかったんですか?」


 意外な質問に対し、答える女の心情がありありと伝わってくる。もちろん疑問や困惑だ。


 ブンブンブンブンブンブンブンブンブンッ!!!!!


 ただでさえ青白かった顔色はさらに青白く、、、というか土気色になっている。死神として最初に感じた圧はとうに消え去り、ただ、首を振る速度だけが面影を残している。

 何にかはわからないが怯えまくっている姿は、年相応の少女だった。


「あー!いたー!」


 階段の方から声が聞こえ、一人の若い女兵が走ってきた。


「はあ、はあ、、、すいませんっ!うちのグーちゃんがご迷惑おかけしましたよね?ほんっと申し訳ないです。この子、回りに知り合いがいないとすぐ体調崩しちゃうのに、すーぐどっかいっちゃうんですよ」


 ぐいっと、オロオロとしているグレーテルの手を、女兵がつかむ。


「ほら、グーちゃん!いくよ!?」

「、、、、、、、、、、、、あっ、、、、、、、、、」


「、、、私、共和国の死神って、もっと怖いイメージだったんだが?」

「安心しろ。俺もだ」


 なんかイメージとは違ったが、足取りや気配の消しかたから実力はわかる。前言撤回だ。あの死神がいればこの戦場では勝てる。


「なら、、、」


 俺の役目は勇者の活躍がどんなものか見届けることだな。


━━━

折り返しですね。


カイル・ヘルネッタ  男    元勇者候補

筋力 A 耐久 S 俊敏 B 器用 B 精神 B 魔力 A


ミューズ・ラッタ・ネーミル 女  連邦の軍団長

筋力 C 耐久 C 俊敏 C 器用 A 精神 B 魔力 S


グレーテル・ナハトムジーク 女  共和国の死神

筋力 A 耐久 A 俊敏 SS 器用 SS 精神 D 魔力 SS

備考『コミュ症』


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