第十四話 開戦
魔王軍が姿を見せた。その一報が入ったのは10日程前のことだった。聖都に伝令が来たときには、すでに戦線が開かれていて、メルブールで籠城戦を行っているとのことだった。魔王軍は目算で約15万。大国の一軍に匹敵する数に加え、もともと人類よりも高い身体能力。さらには、軍の先頭を黒毛の
魔王軍と集められた人類の兵士との戦いは激戦と化していた。魔王軍が現れてから、何も人類はただ手をこまねいていた訳じゃない。
メルブール、ホリアー、サンクトネーモ。3つの大都市で籠城戦を行い、さらには幾多もの奇襲も仕掛けていた。
しかし、戦況は一向に良くはならない。三都市を経て、減った魔王軍の兵力は約5千。対して、人類はおよそ4万近くもの兵士が戦死した。
これには訳がある。度重なる籠城戦。魔王軍は、トロールやオーガといった大型種による破城搥の連撃、隙のない連携等によって確実に人類側の兵士を減らして行ったのだ。
もともと、今神聖国に集まっている兵士は他国からの援軍でできている。他国には他国のプライドや意地、戦術があり、それは決して簡単に相容れるものじゃない。
その差が現れた。魔王軍の将軍たるゼルブは、武人としても指揮官としても優秀なのだろう。
私が戦線に駆けつけたのは2日程前。ちょうどサンクトネーモが攻略された後のことだ。
突然だけれど、神聖国は広い。コーメルム王国なら、縦に二つ、横にも二つ、計四つは入る。
そんなに広いものだから、当然移動に時間もかかるし、防衛ラインも広がる。ある程度どの方向から来るかはわかっているにしても、どの都市から来るかはわからない。そのせいで各都市の防衛戦力(衛兵など)は自然と少なくなり、各都市に置く他国からの兵士の数も少なくなる。また、援軍も遅れる。まさしく負の連鎖といえた。
援軍も足が速い軍を優先的に集め、戦線へと急いだ訳だけれど、それでも到着するのに10日もかかってしまっていた。
「エルカ、そろそろ魔王軍が動きそうだ」
「了解。急いで準備するね」
今回の戦い。正直言って私はめちゃくちゃ不利なのだ。まず、私には筋力があまり無い。それを手数で補うために双剣を使っているわけだけれど、それでも限度はある。大型種や、巨体を持った魔族の場合、一撃一撃に力をかける必要があり、時間がかかる。魔法である程度疲労は回復できるとはいえ、むしろ足手まといになる可能性すらあるのだ。
それでも、できることはやる。それが私の勇者としての役目だから。
私は準備を整え、戦線へ出た。
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魔王軍、陣営にてーーー
「・・・勇者、か。神官の出だと聞いているが、詳細はどうだ?」
筋骨隆々。肩にちっちゃいどころか中型程の重機を乗せているかのような筋肉。はち切れそうな筋肉を、そのミノタウロスは全身を鎧のように覆うようにまとっていた。
「はっ。キャロルの資料によりやすと、年齢は17。性別は女。聖女候補として育てられており、体力はある程度はあるものの、まだ筋力は戦士のそれではないとのことでやす。、、、それより、ゼルブ様。あっしがこれをお読みするのは、今回で五回目にやりやすが、なぜそんな繰り返しお聞きになるんで?」
副官のゴブリンロードの問いかけに、ゼルブは沈黙を貫いた。
「・・・わからんのだ。キャロルが負けたのはいい。それはまだ理解の範疇にある。が、キャロルのとこの犬2号と、3号だったか?あ奴らが負けることが想像できん。
キャロルは気付いておらんかったが、二体とも魔王様をはるかに凌駕する実力を持っておった。負けることはまずない。だが、負けたとも死んだとも報告がないのだ。つまり、あ奴らは生きておる。
とするとまたもや疑問が残る。なぜ、勇者を殺さなかったのか、とな。どうでも良かったという線もあり得るが、それではいささかふに落ちん。それがしこりとなって頭の片隅に残っておるのだ」
副官は、ゼルブの発言に感服する。何を言っているのかはあまり良くわからなかったが、とにかくゼルブが凄そうなことを言っているとわかったからだ。
だから、副官は目を輝かせて言った。
「ゼルブ様なら勇者など敵でもありやせんね!人類なんぞ塵にも等しいでさぁ!ふへっ。帰ったら息子にでも語り聞かせてやりやすかね?」
「・・・」
ゼルブは沈黙した。
「ん?ゼルブ様、黙っちまってどうしやしたか?」
「・・・副官には、腕力ではなく頭脳を求めるべきだと思ってな。とりあえず、貴様は交代だ」
「へ!?」
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