第十七話 叱咤激励?


 領主館の会議室、円卓に沿って置かれた椅子の一つ。俺はそこに腰をおろした。


「悪いな。遅くなっちまって」


 俺は他の席に座っている連中に声をかける。


 ルータレム帝国代表、マルザ・ライネス。

 エクルーグ王国代表、ホイル・ボイル。

 マスカデッタ王国代表、ミゲル・レーブル。

 マルクシナ魔導連邦代表、ミューズ・ラッタ・ネーミル。

 その他、三、四人。全員この国神聖国の援軍に来た軍人どもだ。


「いえ、いえ。それよりも、殿しんがり、お疲れ様だったでしょう?カイル様、ありがとう、ございます」


 そして、ニコニコと微笑みながら座る修道服を身に纏った女、マハータ・ハーレー。最前線であるヘプラッタに来ていた、カーメライツ神聖国のだ。

 勇者が出陣するまでは確かに居なかった筈なんだがな。おおかた時空魔法使って転移してきたんだろうが、、、どんな魔力してんだ?短距離でも儀式魔法レベルの魔力を使うんだぞ?

 この女のせいで会議室の空気も何時もよりも一層緊張してやがる。まあ、他にも緊張の要因はあるんだが。


 俺は恐らく密かに神聖国と連絡を取り合っていたであろう、マハータの隣に座る共和国の女官を見る。初めて死神と会ったときに、死神を連れ戻しに来た女だ。名前はアルマ・ネーチャー。死神専属の補佐官だそうだ。

 じっと睨み付けると、アルマは冷や汗を流しながら目を背ける。計画も実行もしたが、実践慣れはしてないって感じか。

 ・・・因みに死神は彼女の椅子の下で丸くなっている。


 何故共和国が神聖国とつるんでると疑ったかっていうと、先の戦いでのことが原因だ。いや、どっちかっていうと決定打か。

 援軍に寄越しておきながら、動かさずに引きこもらせ続けた死神。それだけなら疑うには不十分だが、俺は他の戦場での死神の戦いぶりを聞いている。伝聞であり、確証があるのかと聞かれりゃ困るが、少なくとも今回みたく一切戦場に出さなかったという報告はなかった。

 んな死神が突然勇者が殺されそうになったタイミングで動きを見せ、ついでに神聖国の中枢卿が来たとなれば、な?


 ・・・こんだけ長ったらしく沈黙を続けてるってんのに、誰も口を開きやしねぇ。たくっ


「で、ハーレー卿。神聖国側の要望はなんだ?自国でこんな大それたことやらかしたんだ。何かしらの意図があるんだろ?」

「全ては神の御心のままに」


 再び沈黙が広がる。

 マジかよこいつ。即答しやがったよ。


「あ、あのぅ」


 しばらくの沈黙を破り、アルマが声をあげた。


「え、えっと、議会が決定したことなんですけど、我々共和国は、全面的に神聖国につかせてもらいます」


 言わなくてもんなことわかってんだよ。そんな意思を込めてアルマを睨むと、アルマはヒュッと軽い悲鳴を上げ、視線を反した。


 再び沈黙が場を支配する。

 マハータは口を開かない。他の連中は連中で、戦前はともかく死神の動きを見せつけられた後である今、動こうとしない。つーか出来ない。


「これ以上、何も話さないならば、この会議、終わりにさせてもらっても、宜しいですか?わたくし、この後、やることがあるんです」


 ニッコリと微笑み、両の手を合わせるマハータ。誰も何も言わない訳だから、沈黙が返る。


「そうですか。では、勇者様への慰問へと、参らせてもらいますね?」


 コツコツと音をならし、マハータはゆっくりと会議室を出ていった。

 この時、アルマと死神グレーテル以外の全員の心が一つになった。


(何をする気だ?)


 と。








 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ああぁ、、、うぅ、、、」


 あれからどれだけの時間が経ったのか、私にはわからない。

 ただ、気がついたときにはリリアが死んでいて、気がついたときには都市の自分の部屋にいて、、、それで、ただただ悲しみくれていた。


 なんで、なんでリリアが死ななきゃいけなかったの?なんで、なんで?リリアを連れていったから?私が弱かったから?

 いろいろある。でも、一番は、、、私が勇者にふさわしくなかったからだ。だから、だからリリアは死んだんだ。

 元を辿ればそもそも私が勇者に憧れを持つことすらおこがましかったんだ。こんな、私みたいなのが。いくら努力したって、いくら足掻いたって、私は勇者に成れない。ふさわしくない。


 嗚呼、いっそ、死んでしまおうかな?たかだか親友一人救えないような人間が、勇者を名乗る資格なんてないんだし。それに、、、未練なんて、、、もう、、、。


「勇者様、勇者様」


 ふと、私の耳に、女性の声が入ってきた。


「あな、た、は?」


 なんだろう。意識がふわふわとしてくる。


「わたくしはマハータ。マハータ・ハーレーと、申します」


 するすると、女性の声が耳へと入ってくる。


 それが、なぜかとてもここちがいい。


「マ、ハータ、さん?」

「そうです。そうです。ですが、わたくしの名前なんて、どうでもいいこと、でしょう?」

「どう、でも、いいこと、、、」


 うん、そうかもしれない。


「さ、どうでもいいことは、忘れてしまいましょう」

「わす、、、れる、、、」


 そっか。忘れちゃえばいいんだ。


「そうです。そうです。さて、勇者様。ご友人が、亡くなってしまいましたね。哀しいですね?」

「うん、、、かなしい」


 リリア、、、リリア、、、


「そして、勇者様は、自分が悪い、などと、思ってますよね?」


 うん、そう。私が、、、


「それは、違います。違うのです」


 、、、ちが、うの?


「いいですか?違うのです」


 、、、そっか、、、違うんだ、、、


「悪いのは、殺した相手です。ゼルブです」


 わるいのは、、、ゼルブ、、、


「思い浮かべてください。ゼルブの、姿を」


 おもい、、、うかべる、、、


「憎いでしょう?怨めしいでしょう?」


 にくい、、、うらめしい、、、


「そうです。憎く、怨めしく、そして、


 そうだ、、、そうだ、、ころす、殺さなきゃ、、、


「殺したいでしょう?返事を、してください?」

「は、、、い」

「いい、返事です。さぁもう一度、ゼルブを思い浮かべて?」

「は、、、い」


 おもい、、、うかべる、、、、、、にくい、、、にくい、、にくい、にくい。にくい。にくい。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。


「そうです。そうです。憎いんです。殺したいんです」


 殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。


「さあ、今は、眠りましょう?そして、起きたら、殺しましょう?」




 眠い、、、ねむ、、、、、、る、、、、、、、、、。










「全ては、神の御心のままに」




━━━

洗脳されちゃいましたね。可哀想に。

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