俺の彼女の厨二病戦録《シンドローム・メモリアル》

瑠璃

プロローグ

 凍えるような寒さ。はあっと息を吐くと白い吐息が出るこの季節。

 俺、神崎廉は、学校の屋上に呼び出されていた。

 何故かって?理由は簡単。昼休み、俺の机の中に一通の手紙が入っていたのだ。俗に言うラブレターというものであろう。

 初めてそんなものをもらった身としては、かなり嬉しかったのだが、よくよく考えてみるとふと思った。

 罰ゲーム告白の類のものではないかと。

 だって考えてみてほしい。俺の見た目は超平凡。さらには常に教室の端っこにいるボッチ系の陰キャだ。

 誰がこんな奴のことを好きになる。ネガティブ思考だと言われてしまえばそこまでなのだが。

 まあ、そんな訳でこちらとしてはさっさと終わらせて帰りたいと思っている。

 というか、手紙に記載されている時間からだいぶ経っているのだが、時間にルーズな奴なのか?

 それに何だこの記載されている名前。

 『ゴット神』って、意味が被ってんじゃねえか。


「ごめんごめん。待たせたかな?」


 そんな事を思っていると、屋上入り口の方向から突然と声が聞こえた。

 今、屋上には俺しかいないのでその声の主は自称『ゴット神』さんであろう。

 声がした方に目を向けると、俺は息を呑んだ。

 夕日に照らされて輝くように見えるその白金色の長い髪は、見れば見るほど美麗であり繊細で、奥の奥まで続いているような感覚に陥ってしまうほど綺麗に澄み通った亜紺色の瞳。ツンと整った鼻に、桃色に彩られた唇。水のように滑らかそうな白乳色の肌は人間離れしているほど綺麗であった。

 一言で言い表すのであれば、絶対的な美少女。それに限るほど、とてつもない美少女だ。


「どうかしたのかな?」

「……いや」


 とても、「見惚れていました」とは言えず、何も感じていませんよ的な空気感を出して、彼女の澄み通った瞳を見ながら答える。

 それに対して彼女は、「そ、ならいいや」と言ってニコッと笑った。

 その笑顔を見た瞬間、俺は思わず彼女の瞳から視線を外した。

 無理無理無理無理。あんな可愛い笑顔を直視するなんてとてもできない。


「…………それで、話って?」


 照れ隠しのためも兼ねて、何とか話題転換し、相手に悟らせないようにする。

 それに対して彼女は「ああ」と思い出したように手をポンっと叩いた。


「まずは自己紹介から。私の名前は七瀬雛」

「俺は神崎廉だ」

「うん。知ってるよ。知らなかったら呼び出してないし」

「そりゃどうも」

「お礼の言葉に反して、あんまり嬉しそうな表情には見えないけど?」

「……諸事情でな」


 言えない。

 とてもじゃないが、「早く帰りたいだけ」なんて言えない。

 クールな表情を表では維持しているものの、内心では冷や汗をダラダラ流していることなど露知らず、雛は「ふーん?」と勘繰りを入れるかのように怪しげな目でこちらの顔を覗き込んでいる。

 あまりに顔が近くて、「やめてくれ」と俺はそっぽを向く。

 それでも雛は顔をしばらく遠ざけなかったが、不機嫌の元になってしまうと感じたのか、「はいはい」と顔を遠ざけた。


「んじゃ、本題行くけど」

「巻きで頼む」

「じゃあ、単刀直入に言うけど……」


 雛は、一つ間を置いてから、それを口にした。


「君、私の恋人になるつもりはない?」


「…………」

「……あれ、黙ってるイコールOKってことでいいのかな?」

「……一つ、質問させてくれ」


 予想はしていたが、まさか本当に告白してくるとは。

 雛は「いいよ」と首肯を打って許可を示した。


「なんで俺なんだ?お前のその容姿なら、より取り見取りだろ」


 この疑問は極めて真っ当なものだ。

 雛のような美少女が何故、俺のような成績も大して良くなく、運動も平均的の凡人に告白をしたのか。誰もが抱くような疑問のはずだ。

 だが、雛はあっけらかんとした様子で意外な事を口にした。


「君からは、とんでもない魔力を感じる」


「……………………は?」


 俺は思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 ん?え?ち、ちょっと待って。俺の脳が情報処理しきれてないんだが。


「な、七瀬さん、その……魔力?って何かの比喩表現とか……」

「違う。そのままの意味の魔力だよ」

「……………………………」

「……………………………」


 …………やべえ、ますます意味がわからん。

 よし、一旦落ち着こうか、俺。

 情報整理。雛は「そのままの意味での魔力」と言っていた。そして雛の目が映し出している本気マジな目。

 間違いない。彼女は、七瀬雛はーー。


「ーー厨二病」


 そう、七瀬雛は厨二病患者だった。


 どうしよう……。断ろっかな……。

 ふと、そのような思考がよぎったが、すぐさまそれは脳内で否定された。

 何故なら、彼女がとんでもない美少女だからだ。

 こんなに可愛いのだから、女子からも人気が高いだろう。

 もしコイツの告白を断ったら、コイツは女子たちに言い、俺がとんでもなく責められることになるだろう。

 消される。社会的な意味で。

 最前な未来としては、交際をして、出来るだけ優しく接してかつ、雛から別れ話を持ち出す事だろう。

 矛盾しているようにも聞こえるが、ボッチで何の力も無い人生負け組陰キャとしてはこれしか手段がないのだ。

 俺は覚悟を決め、出来るだけ雛に好印象を持たれるような笑顔を作り……。


「良いぞ、お前と恋人になっても」


 告白を受け入れた。

 この言葉を発した瞬間、雛は一気に顔を明るくし、花が咲くような笑顔を見せた。


「言ったね。二言は無いからね」

「ああ、勿論」


 そっちが諦めてくれるまではね。


 この瞬間、俺はこの厨二病と、長きにわたる戦いを覚悟した。

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