第24話 初任務へ行こう!

「れ、廉……。もう少し近くに来て……。死んじゃう……」

「いや、近くに行ったとして、俺の体をまさぐるつもりだろ」

「ちっ……」

「舌打ちすんな」


 俺たちの隊は今、猛吹雪に襲われている。

 何故吹雪に襲われているかは、昨日のことを話す必要がある。


ー昨日の夕方ー


「よー!廉!居るかー?居るな!よし、任務だ!明日の朝までに出動しろ!じゃ!」

「待て待て待て」


 俺は思わず奏華の首根っこを掴んで、部屋から出ようとする彼女をその場に留めた。

 速攻で来て、速攻で帰ろうとするんじゃねえ。


「いきなり任務と言われても……そもそも内容を教えて……」

「任務だ!じゃ!」


 ……俺は無言で『衝撃』を付与した拳を上に振りかぶる。


「待て!待ってくれ!ちゃんと説明するから!その拳を下ろしてください!」

「……次に妙なことを言ったら容赦しませんよ」


 俺がそっと拳を下ろすと,奏華はホッと胸を撫で下ろす。

 俺はソファへ座り直し、奏華は扉の前に立ったままだ。いつでも逃げれるようにしてんだろうなあ。


「まず、任務内容についてだが、シベリアの小さな雪山で、特殊災害が確認された」

「ん?ちょっと待ってください」


 俺は思わず静止の言葉を口にする。


「何だ?」

「シベリアって、SSS日本支部団の管轄外のはずですよね。なのに何故行かなきゃ行けないんですか?」


 通常であれば、ロシアが出向くような案件のはずだ。

 なのに何故、日本にお鉢が回ってくるのか。

 俺の問いに「ああ」と奏華は声をあげる。


「言っちゃうとアレなんだが、ロシアのSSSってそこまで強くないんだ」

「それは知ってます。ロシアはどちらかというと、異能力よりも純粋な力に重きを置いてますからね」

「そうだ。で、ロシアは総出で別件の特殊災害を片付けててな。発生地から近い日本に白羽の矢が立ったって訳だ」


 おおう、随分な押し付け精神じゃねえか。世界本部さんよお。

 まあ、奏華が言った理由は表面上であって本命は違うだろうけど。

 恐らく本命は俺。

 今回の任務で俺を神かどうかを見極めるつもりなのだろう。

 はっきり言って、これに俺たちの隊が行く必要はないと思ってる。

 奏華もそれが分かってて、有無を言わせないように速攻で話を終わらせようとしたのだろう。

 うーん……。どう思う、クラー。


『まあ、正直言って行かなくてもいい気がしますが、それの手はただの先延ばしに過ぎません。ならいっそ、早めに行ってしまった方がメリットが大きいと思います』


 ま、それもそうか。

 もしここで任務を突っぱねても、またこういう類の任務が来るし、その度に断っても隊の印象を悪くするだけだ。

 なら最初から行って、面倒ごとを潰してしまった方がいいだろう。


「……分かりました。行きます」

「そうか。気を付けて行くんだぞ」


 奏華は重めな表情でこちらを見据えている。

 やはり、奏華も気付いていたか。


「大丈夫ですよ。僕はこの程度で死ぬような雑魚じゃありませんから」


 俺は少しでも安心させるため、満面の笑みを顔に貼り付けた。


 そんな感じで始まった出張任務だがー。


「初日で遭難とはツイてないな……」


 まさかの遭難中であった。


「せやな。ワイと廉は異能力で寒さを凌げるけど、問題は……」


 俺ら二人は一人の少女を見る。

 銀髪を揺らしてガタガタ震えている少女、アリスである。

 いつもは絵の具でぐちゃぐちゃな服を着ているが、今日は全身を覆う青いローブを纏い、いつもよりも凛々しく見える。

 ちなみに俺とシンもローブを着ているが、アリスとは違い赤色である。


「アリス、まだ耐えれるか?」

「無理……」


 俺はシンの方を見る。

 シンは首を横に振って「こりゃしゃーないわな」と言いたげにため息をついた。

 おなしゃす、アニキ。

 俺はブルブル震えるアリスを横抱きにして持ち上げ、その場から少し遠い場所へ移動する。

 あの場にいれば、巻き込まれる可能性があったからな。


「いいぞ!シン!」


 俺がそう叫ぶと同時に、シンは大剣を取り出す。

 そしてその大剣を地面に突き立てた。

 シンの異能力は『薪炎』。

 異能力を使う度に体が小さくなるが、絶対的な火力をもつ炎を生み出すことが可能となる。

 見ての通り、シンの刺した剣が炎を生み出して辺り一帯を焦土へ変えた。

 それによってここら一帯の吹雪がピタリと止んだ。

 俺はそれを見て、すぐさまアリスと一緒にシンの元へ戻る。


「お疲れ」

「いや、これぐらい朝飯前や」


 こうは言っているが、消耗は激しいはずだ。

 実際、肩で息をしていて疲れが入っているのが見て取れる。

 これは一旦休んだほうがいいかもな。


「シン、アリス。今日はここで休もう。消耗が激しすぎる」

「……分かった」

「了解や」


 二人は短く返事をして、すぐに眠りについてしまった。

 これは、しばらく俺が起きておいた方が良いかもしれないな。


「念の為……『空間隔絶』」


 俺は異能力で半径100mの空間を別次元に隔絶し、邪魔が入らないようにする。

 これを維持するために、俺は寝れないけど……。

 俺はしばらくの間、眠気と死闘を繰り広げるのだった。

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