第7話 こんな世界はあってはならない

「SSSだ!貴様らを逮捕する!」


 俺らが廃墟へと突入したと同時に響くSSSの声。

 これ、あれだ。ドラマでよく見るヤツだ。


「何ボーッとしてるんですか先輩!私たちも行きますよ!」

「お、おう!」


 呆けているところを紅羽に指摘され、突入する俺たち。

 すると目の前に、抵抗しようと立ちはだかってくる奴隷商の人ら。

 俺は素早く木刀を取り出して……。


「邪魔です」


 相手を叩き切ろうとした瞬間に、突如として倒れた。

 突然の事だったため、思わず「え……?」と呆けてしまう俺。


「先輩、ボーッとしないで下さい。これで二回目ですよ」

「ご、ごめん」


 俺は戸惑いつつも、紅羽と先へ走る。

 だが、先程の出来事が不思議すぎて、俺は紅羽に問いかけた。


「な、なあ。さっきのって、紅羽がやったのか?」

「他の誰がいるんですか?」


 やはり紅羽のお陰だった様だ。


「けど、一体どうやって……」

「……先輩は、脳から指令がいく時、神経がどうなっているか知ってますか?」

「え、うん。電気信号がどうのこうのってことは知ってる」


 俺がそう答えると、紅羽は「そうです」と、走りながらも淡々と答える。


「生物が動くには脳からの電気信号が必要です。私はその電気信号を一時的に停止させただけです」

「それが、紅羽の異能力なのか?」


 俺のその質問に対して紅羽は「うーん……」と悩む素振りを見せる。


「細かく言えば違うというか、さっきの現象は、異能力の応用に過ぎないんです」

「というと?」


 俺がそう問いかけると、紅羽は何とも無い様に答えた。


「私の異能力は、電気を操ることが出来る能力です」


 紅羽はそう言って、こちらに笑顔を見せた。

 「どうだ?驚いただろ」と言わんばかりの顔である。

 驚きはしたけど、お前のその顔で一気に感情が冷めたわ。


「……さて、長い廊下もこれで終わりだな」

「あれ、もう少し反応しても良いんじゃ……」


 俺は紅羽の言葉をガン無視して目の前にある扉を開ける。

 後ろにいる紅羽がうるさい様な気がするが無視だ。


「これは……!」

「もう!聞いてるんですか!?先輩……、先輩?」


 俺は目の前の光景に息を呑んだ。

 そこには大量の子供たちが牢屋に閉じ込められている様子や、傷だらけで生きているかどうかも分からない人なんかもいた。

 目の前に広がる景色は、正に地獄絵図。


「紅羽……。何だよ、これ」

「先輩……」


 こんな酷い事を平気で行なっている人間がいると思うと、腑が煮え繰り返りそうだった。


「あ、なた……たちは……?」


 俺が怒りを覚えていると、一番近くの牢屋の中にいた少女が倒れながらそう問いかけてくる。

 その目は虚で、こちらを見ているのか疑わしい。


「俺らはSSSだ。君たちを助けにきた」

「たす、けに……?」


 その子は驚いた表情でこちらを見て、声を殺しながら涙を流した。

 恐らく泣き声を上げることも禁じられていたのだろう。

 俺はその子を抱き起こして、そっと頭を撫でた。


「今までよく頑張ったな。偉いぞ。…………それから、もっと早く助けに来れなくてごめんな」

「……っ!……っ!」


 この子はよっぽど辛かったのだろう。紅羽が要請した救助班が来るまで、ずっと俺の胸の中で泣いていた。


♢♢♢♢♢♢


 救助班が拐われた子達の救助を終わらせ、先へと向かっている途中、俺はとある質問を紅羽に訊いていた。


「なあ、紅羽。あの子達、どうなるんだ?」

「SSSが運営している病院で治療を受け、リハビリを終えた後に、あの子達の家に帰してあげます」


 まあ、それが妥当だなと頷く。

 「ただ……」と、紅羽は話を続けた。


「ほとんどの子は、家に帰りたくないと拒否をします」

「は……?」


 思わず出てしまう驚嘆。

 なぜ地獄から解放されるというのに帰りたくないと言うのだろう。


「廉先輩の疑問は分かっています。なぜ家に帰りたくないと言うのかって事ですよね」


 俺はこくりと頷く。

 心の中を見透かされたと言うことはスルーしておこう。


「廉先輩、考えてみてください。奴隷商が拐って奴隷を確保するのであれば、間違いなくメディアに取り上げられます。つまり……」

「つまり親が子供を奴隷として売ると。だから自分を売った家に戻ってもまた売り返されるだけだと思ってしまうのか」

「そ、そういうことです……。チッ、セリフ取られた……」

「そういうメタいこというな。……というか、家に帰りたくないのであれば、どこに住ませるんだよ」


 この疑問に紅羽は、「問題ないですよ」と淡々と答える。


「帰りたくないと言う子には新しい生活の場、言わば寮ですね。そこに住んでもらいます」

「へぇ。SSS様様だな」

「あとは、雛パイセンみたく、SSSに入る子もいます」

「凄いとしか言葉が出てこない……」


 俺の反応に紅羽はクスリと笑う。

 けどそっかぁ。雛もあの子達みたく、救われた側なんだな。

 俺もさっきのであの子達の救いになれてたら嬉しいな。


「先輩。次の部屋が見えてきました」

「そうか」


 紅羽の注言で前を見ると、扉が目視出来る距離までに迫っていた。


「先輩、気をつけて下さいよ」

「気をつけるって……?」

「地下に入ってから、全然敵と出くわしていません。無論、戦わずに済むならラッキーですが、嫌な予感がします」

「分かった……」


 俺は扉へ手を伸ばして、開けた。

 そこにあった空間は、何も無かった。


「ここは……」

「何もないですね……。空き部屋としては不自然ですし……」


 何か隠されているのではないかと注意して進んでいると。


「あれ、廉くん……?」


 ふと、聞き覚えのある声が背後から部屋へ響き渡る。

 俺と紅羽が後ろに振り返ると、そこには、別班で、ルートも違う筈である雛がいた。

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