第6話 僅かなひと時を
美波が奴隷商に攫われてから一週間が経った。
事態の変化は緩やかで、まだ行動を起こして………。
『間も無く奴隷商日本支部への突入作戦を開始する。一人残らず捕まえろ!』
「「「「「おおおおおおお!!」」」」」
『うるせええええええ!!気付かれるだろうがああああ!!』
「「「「「…………はい」」」」」
行動を起こしていた。現在進行形で。
この様になったのには理由がある。
事は昨日の昼––––。
「明日の朝、奴隷商への突入作戦を開始します」
「……は?」
思わず出た疑問の言葉。
いきなり過ぎて脳が全然追いつかないんだが……。
俺はとりあえず、紅羽の話を聞くことにした。
「時間は明日の3時半。場所は羽田空港から徒歩10分程度で着く廃墟の地下です」
「……随分と事細やかに言ってくれるな。何か意図でも?」
思わず聞いた質問に紅羽は「いえ……」と否定の言葉をあげる。
じゃあ、何で俺にこんな情報を開示したんだよ。
「……意図はありませんが、要求ならあります」
「要求……?」
思わず紅羽の言ったことを反芻する。
「ええ。というか、命令と言った方がいいかもしれません」
紅羽はため息を一つつくと、それを口にした。
「明日の突入作戦、廉先輩にも同行して頂きます」
「……は?」
いや、なんでだよ。
俺が行っても一ミリも戦力にならないだろ。
「……一応聞くが、何で?」
「さあ?上からの命令なので、私にはさっぱりわかりません……って、『うわぁ、コイツ使えね〜』みたいな目で私を見るのやめて下さい!」
ーーーーーーーーーと、いう訳で、こうしている訳だ。
…………うん、自分でも訳が分かんない。
「廉先輩、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。紅羽は随分と落ち着いてるな」
「踏んでる場数が違いますからね」
えっへん!という擬音語が似合うくらいのドヤ顔をこちらに向けてくる紅羽。
今回の作戦において、紅羽が俺の護衛をしてくれるということらしい。
実にありがたい事だが、女性、それも年下の子に守られる男って……。
尊厳が無い様な気がする……。
ちなみに、雛は別の班なのだそうな。
上の方に「廉君と一緒の班がいい〜!」と駄々をこねた様だが、最後まで可決されなかった。
聞いてるこっちが恥ずかしかったです……。ホント、ウチの子がスミマセンっ!
心の中で謝罪をしていると、耳につけているインカムからザザッと音が入る。
『間も無く突入する。F班、そちらはどうだ』
「こちらF班。いつでも実行可能です」
インカムから発せられた声に紅羽が応答する。
おお、カッけえ……!
と、俺の目線に気付いた紅羽はフンっと鼻を鳴らす。……こういう所が残念なんだよなぁ。
それからしばらく待っていると、途中で紅羽が話しかけてきた。
「そういえばずっと気になってたんですけど、廉先輩が背負ってるそれ、何ですか?」
紅羽がそれと指差したのは、俺が背負っている、布で覆われた細長い物体だった。
「ああ、これ?この中は木刀だよ。ウチに沢山あるから、一本借りてきた」
「ふぅん……。ちなみに折ったら?」
「弁償五万円」
「高っ!」
「冗談だよ……」
冗談だと言ったものの、紅羽は俺の木刀を見るたびにビクビクしてる。
大丈夫だから。折っても弁償させないから。
『突入開始のカウントダウンをする!全員、配置に付け!』
そんな茶番を繰り広げていると、インカムから間も無く突入するときた。
さて、緊張ほぐしもここまでだな。
「カウントダウン開始。5……、4……、3……、2……、1……」
俺と紅羽は互いに顔を見つめ合って頷く。
美波、必ず助けてやるからな。
『突入開始!』
「おおおおおおおおおおおお!!」
こうして、奴隷商への突入作戦が開始された。
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