第8話 遭遇する獣

「雛……?」

「廉君……?」


 何故、ここに雛が?

 紅羽からは、作戦中、雛と会うことは無いだろうと聞いていた。

 ならば何故ここに雛がいるのか。


「あっれぇ〜?集まったの3人だけ〜?」


 頭の中で疑問を巡らせていると、ふと、降りかかった声。

 それが聞こえた俺たちはすぐさま戦闘態勢となる。


「おぉ、怖っ!そんな目でボクを見ないでよ。興奮すんじゃん」

「少年……?」


 そこに居たのは一人の少年だった。

 体も小さいし、歳はだいたい10歳くらいだろうか。

 と、雛が急に前に出て、一瞬こっちに目配せをする。

 ……いや、目配せの対象は紅羽か……。


「君、一体何者?見た目からしてかなりの子供の様に見えるけど」


 雛がそう声を掛けると、少年はヘラヘラしていた表情から一変し、一気に殺意に満ちた目でこちらを睨んできた。


「あ?ザコがボクに名乗れって何様のつもり?普通さあ、自分から名乗るもんでしょ?」


 コイツ、随分性格が捻くれてやがるっ!

 親の顔が見たいくらいだ。

 直接話していない俺でさえイラッときてしまった。

 流石の雛もこれは……。


「……ほう?私から名乗れと。良いだろう良いだろう」


 …………あれ?なんか嬉々としている。

 というか、態度もデカくなり始めてるような……。


「我が名は七瀬雛!またの名をアイズオブクイーン!お前の魂に刻み込んでおけ!」

「「「…………?」」」


 えっと……、雛さん。

 ここで厨二病発言はどうかと思うんだが……。

 てかアイズオブクイーンなんて初耳なんだが?

 本当にそんな名前あんのかよ。……いや、無いな。確実に。


「隙あり!」


 気まずい空気になっていたところを切り裂いたその一言を放ったのは、紅羽。

 紅羽はいつの間にか少年の目の前まで接近しており、さらには右手に剣が握られている。

 子供相手にやり過ぎではないかと思ったが、そんな事を指摘する前に紅羽の剣が少年に届く。

 これは確実に殺ったと誰しもが思った、その瞬間。


「……あのさあ、名乗ってもいない子供に剣を振りかざすなよ」

「っ!」

 紅羽の剣が、少年に届く前に弾かれた。

 何が起こったのか。


「紅羽!」

「大丈夫です、先輩」


 そう言うと、紅羽は剣を持っている手とは逆の、左手に雷で形成された刀を生成した。

 おお、異能力って、こんなこともできるのか……!


「あのさあ、人に剣を振ったんだから、殺される覚悟はできてるよね?」


 俺が紅羽に感心していると、少年が、今にも殺してきそうな目つきでこちらを睨んでいる。

 よっぽど沸点が低いのだろう。

 そんなに怒ってると寿命縮むよ?


「廉先輩、雛パイセン、先に行って下さい。この少年の子守りは私がします」


 紅羽は少年をじっと見たままそう言ってきた。


「でも、紅羽!」

「大丈夫ですよ。一人でも全然余裕です。私、こう見えて強いんですよ?」


 あ、アカン。

 コイツ、ビックリするぐらい死亡フラグ立ててる。

 ただまあ、俺がここにいても邪魔になるだけ。

 ならば先に行って、後から合流の方が効率が良いかもしれない。


「…………頼んだぞ!」


 俺はそう言って、雛と一緒に、先へと走り込んだ。


「行かせると思って……っ!」

「邪魔出来ると思ってるんですか?」

「虫が……!」


 少年が邪魔しようとするところを、紅羽が雷撃を少年に放つことでそれを防ぐ。

 これ、あれだ。ファンタジー世界だ。

 俺はそう思いながら、その部屋を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る