第9話 日本最強の異能力


 紅羽と別れててしばらく、俺は走りながら雛にとあることを尋ねていた。


「なあ、雛」

「ん?何」

「……今さらだけど、紅羽ってそんなに強いのか?」


 俺の疑問に対して雛は「へ?」と腑抜けた様な声を漏らす。


「強いも何も、バカ強いよ。私よりもずっと強い」

「マジか!?……ん?けど立場は雛の方が上だよな?」


 またもや出てきた疑問に雛は「ああ……」と、遠い目をする。

 何だ?何かやばいことでもあったのか?


「実は3年前の事なんだけど……」


 雛は走りながら、紅羽のとんでもない過去のことを語り始めたのだった。


♢♢♢♢♢♢


 一方その頃ーーーーーーーー。


「ほらほら!ボクの子守りをするんだろ!?やってみなよ!」

「うるさいですね。子供なら子供らしく、耳に入れても痛くない声で泣いてもらえますか?」


 壮絶な攻防戦を繰り広げていた。

 といっても、まともに攻め込めているのは紅羽の方だ。


(拮抗しているわけではない。本気を出すまでも無さそうですね)


 紅羽はそう思い、一気に自身の異能力の火力を上げる。

 無論、殺さない程度に。


「すみませんが一気にカタをつけさせてもらいますよ!」


 紅羽はそう言うと、自身の前に手をかざし、高電圧の電撃を発生させる。


(充電完了ーーーー500万ボルト、指向性セット完了!)


 そしてそれをーーーー。


「『電磁砲』、ファイア!」


 少年に向けてビームの様に放射した。

 高電圧の上、電気であるため高熱。

 異能力者でなければ死んでしまうだろう。

 だがーーーー。


「……何だ、こんなモン」


 少年は何でもないかのように、自身の体へ到達する前に、触れず、叩き落とした。


「なっ!」


 無論、これには紅羽も驚く。

 手加減してはいたが、確実に仕留められる程の威力をあっさりと。

 紅羽は予想外な出来事に驚愕を隠せずいた。

 だが……。


(ですが、今ので、少年の異能力が分かりました)


 そう、紅羽は見抜いた。

 少年の異能力を。

 ただ、予測であるため、何かしらでもう一度試してみよう。そう思い、紅羽は雷の剣を生成する。

 そしてそれをーーーー。


「よっと」


 少年に向かって投げた。

 無論、少年には当たらず、直前で叩き落とされる。


(やっぱり、そういうことですね)


 紅羽の予測、仮定は確信に変わる。

 紅羽が生成した雷は、紅羽の感覚とリンクしているため、雷撃の火力調整が可能だ。

 そして、紅羽は、その感覚共有によって気付いた。

 空気の質量が変化していると。

 つまりはーーーー。


「少年、君の異能力、気体の質量を自在に操るとかそういう系ですよね」

「へー、結構頭良いね。流石、SSSってところかな」


 やはりだ。

 ならば、対処は簡単だ。

 少年の様な、自然概念に干渉する異能力は、必ず効果範囲がある。

 つまりは、少年の効果範囲を無視できる様な攻撃をすれば良い。

 紅羽はそう考えているが、かなり難しいことを言っている。

 要は、少年の無敵バリアに近しい異能力を無視してしまおうと言っているのだ。

 並大抵のことじゃない。

 だが、江禅紅羽という女はそれを可能にしてしまう手札を持っている。


(あんまり本気は出したくないけど、しょうがないですね)


 紅羽は、ふうっと一つ息を吐く。

 まるで集中しているかの様だ。

 少年は何だと言わんばかりに不思議そうに見ている。

 そしてーーーー。


「……『二次覚醒』解放っ!」


 紅羽がそう宣言した刹那、周りの空気が一気に重くなる。

 紅羽を中心に、空気にかかる電圧が急激に増したのだ。


「少年、一つ、良いことを教えてあげましょう」

「あ?何だよ……?」


 少年は、未だ余裕そうに大口を叩く。

 今まさに、負けが確定したと知らずに。


「異能力は最初に覚醒した、つまり使えるようにった時を一次覚醒といいます。そして、自分と異能力が極限まで一体となった瞬間、再度覚醒が発生します。それが二次覚醒です」

「はっ、だからどうした。ボクには関係ない話だね」


 少年が傲慢な態度に対し、紅羽は「はあ」とため息を吐く。

 哀れだ。相手の強さも目測できず、何もせずに終わるだなんて……。


「せめて、一撃で……」


 紅羽が手を前に突き出すと、雷で生成された巨大な虎が現れる。


「無駄だって分かってるくせに、何度やっても同じ……」


 少年は異能力を発動させようとする。

 ーーーーだが、発動しなかった。


「は!?何で発動しない!」


 少年は再び試すが無駄だった。

 一向に発動する気配がない。


「無駄です」


 少年を見かねてか、紅羽が淡々とそう言った。


「この空間一帯に、私の電気を張り巡らせました。この空間にいる限り、あなたの異能力マイクロチップの働きは、私の電気によって阻害されます。つまりは、この空間内で、私以外の異能力者は異能力が使えません」


 少年はその事実を知って絶望する。

 そう、少年は、紅羽と戦っていた時点で、負けていたのだ。

 絶望する少年に追い討ちする様に、電撃の虎がゆっくり少年に近づいていく。

 少年はは「ひっ」と小さく悲鳴を上げ、少しずつ後ろへ下がるも、すぐに壁へ到達してしまう。


「ま、待て……!お前、子供にこんなことして許されると思ってんのか!?」

「……大丈夫」

「は……?」


 紅羽はただ無表情に答える。


「子供なら、何人も殺してきましたから」


 紅羽が人を殺す時、何も聞こえず、何の心も無い。

 ただ、目に映る敵を殺すだけ。

 そうして、今回もーーーー。


「さよなら。ーーーー『ボルテクス・ファング』」


 紅羽は、人を殺した。


♢♢♢♢♢♢


 かつて、SSSの隊員にも関わらず、独断でテロリストが占拠した島へ単独で乗り込んだ少女が居た。

 少女はたった一人でテロリストを壊滅させ、さらには、その島自体も破壊してしまった。

 その島はもう地図のどこにもない。

 少女はSSSにて二尉以上は上がらないという処分を受けた。

 少女の名は江禅紅羽。現時点、日本最強の異能力者である。

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