第10話 アイズ・オブ・クイーン

紅羽が勝利を収めたその頃、俺たちはというとーーーー。


「『氷華・乱れ咲き』!」


 雑魚敵を氷漬けにしていました。

 雛の異能力は「対象者に『氷結』を付与すること」という、ぶっ壊れに等しい異能力だ。

 うん、今みたいに、刀で切った敵を氷漬けにしている。

 ただ、疑問に思ったのが……。


「なあ、雛。これって殺してるんじゃ……」


 俺の問いかけに対して、雛は「いや」と、首を横に振る。


「この異能力は殺傷能力は無いんだ。どちらかと言うと、拘束に特化した異能力かな」

「というと?」


 さらに説明を求めると、雛は「うーん」と悩み始める。

 その間にも敵が迫ってきているのだが……。


「オラっ!死n……」


 雛の刀の間合いに入った瞬間、すぐさま凍結させられている。

 ご愁傷様です……。


「うーん、なんというかこう、氷漬けにされるとコールドスリープするっていうか……」

「お、おう。その説明で十分だ。ありがとう……」


 つまり、『氷結』を付与されると、対象者は氷の中でコールドスリープすると。怖っ!

 もう、雛を怒らせるのはやめよう……。


「……っと、話してるうちに終わってるね」

「え……、あ、ホントだ」


 ふと周りを見ると、氷漬けにされた人たちが、この部屋のそこらじゅうに転がっている。

 疑っていたわけじゃ無いけど、ホントに雛も強いんだな……。

 そんなことを思いながら雛に近づくと、突然、視点が落ちた。

 いや、視点が落ちたんじゃない。俺自身が落ちているんだ。


「廉君!」

「雛!」


 雛が手を伸ばし、俺もそれを掴もうとするが、届かなかった。

 俺はそのまま落ちていき、俺を落とした穴は閉じていく。


「雛ーっ!」


 その助けを求める声も虚しく、俺は虚無のような空間をただ落ちていくだけだった。


♢♢♢♢♢♢


「くふふふっ!な、仲間はこれでいない!君、君はもう、一人しかいな、いない!」


 廉が落ちた直後、雛の前に現れたのは全身がボロボロな中年の男性だった。

 見た目からして弱そうだが、雛は一切油断も隙も見せずに剣を構える。


「……奴隷商ってのは、随分と好戦的な奴が集まるみたいだね」

「え、ええ!?あの少年、助けに、行か、行かなくて良いの!?SSSってのははく、薄情なヤツが集まるとこ、なんだねえ!」


 男性の声はハイテンションとでも言えばいいのか、とてもうるさい。

 ただでさえ耳障りな声なのだから静かにして欲しいものだと雛は顔を歪ませる。

 すると、彼の足元に穴ができ……。


「あの少年はボスの部屋に連れて行った。まず間違いなく死ぬだろう」


 響くような低い声で言いながら穴から出てきたのは、またもや中年の男性。髪を見るに外国人だろう。

 彼が穴から出てきたということは、彼が廉を落とした張本人で間違いないだろう。

 雛は溢れ出そうになる感情を押し殺し、状況を整理する。


(状況は最悪。廉君が死ぬかどうかのこの状況で、正しい判断は、廉君の救助。だけどーーーー)


 恐らく、そんなことは目の前の二人が許してはくれないだろう。

 つまりはーーーー。


「最速で終わらせる!」


 雛は剣を再び構えたと思うと、一瞬で間合いを詰め、一気に剣を振る。

 だがーーーー。


「がああああああああああ!!!!」


 ふと聞こえたボロボロな男性の声と共に雛は、後方へ一気に突き飛ばされてしまう。

 何とか空中で体勢を整えようとして踏ん張るも、吹っ飛ばされた先には何故かもう一人の男性が立っていてーーーー。


「うっ……!」


 雛は男性の蹴りをまともに喰らってしまった。

 そしてそのまま地面に叩きつけられるように転がるが、ここも踏ん張りで立ち上がる。

 穴の男性の方に目を向けると、またいない。

 ふと、ボロボロな男性を見ると、その隣に穴の男性がいた。


(なるほど……。穴は転移系の異能力か……。それにボロいジジイの方は自身の声をトリガーにした爆発的音波の異能力……。厄介極まりない)


 雛の異能力、「対象に『氷結』を付与する」異能力は、対象を斬った時に発動するものだ。

 つまり、相手に近づかなきゃいけないため、今回はかなり相性が悪い。


(ボロジジイの異能力が音関連なら近づけば近づくほど威力が上がるから不用意に近づけない。その上、転移系の異能力ときた。ほんとイヤになる)


 転移系は回避に専念されたら、本当に攻撃が当たらない。

 だから今回は雛が不利となるのだ。

 恐らく、彼らも分かってて雛とやり合ってる。


「けど、最速で終わらせなきゃ行けないからなあ……」


 じゃないと廉君が危ない。

 雛はその焦りと共にある決断をした。


(リソース量が半端ないけど、やるしかないか!)


 雛は一旦、男性たちから距離を取り、そしてーーーー。


「『二次覚醒』ーーーー解放っ!」


 『二次覚醒』を発動させた。


「ほう……」

「二次覚醒!何だ!?」


 男性たちも驚きで表情が染まる中、雛は虚空に向かって剣を振る。

 何をやっているのか。そんな疑問は一瞬で吹き飛ばされた。


「「……っ!」」


 男性二人は気付けば氷漬けの直前だったのだ。

 一体何が起こったのか。

 全く理解が出来ない。


「『二次覚醒』は、異能力自体でできる範囲の大幅な拡張だ」


 雛は突如、男性二人に話し始める。


「異能力の拡張……。私はそれを利用して、この空間全体に『氷結』を付与したんだ」


 そう、あの虚空を斬る動作は、実際は虚空ではなく、空間自体を斬ったのだ。

 よって、雛の展開したこの『氷結』を付与された空間は、入れば空間の一部と見なされ、一瞬でコールドスリープへと誘われてしまう。


「もう、初手一発目から本気出すのは予想外だったね……って、もう凍っちゃってるから聞こえないか」


 そう。男性二人は気付けば、完全に氷に覆われていた。

 氷結が付与されてから10秒も経っていないのにだ。

 雛はそっと笑みをつくり……。


「おやすみ……。私が死ぬ時までね」


 これがアイズ・オブ・クイーン。

 氷結の女王の実力である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る