第21話 新たな出会い、君色で

 あの少女と別れてから数分後、俺は総団長室の前に立っていた。

 相変わらずボロボロ気味な扉をノックして、中から「入れ」の一言が聞こえたため、扉を開けて中へ入る。


「おう、来たか」

「いやまあ、“殺す”とか言われたら行くしかないでしょ」

「ははは!私は団員を殺したりはしないさ!厳しい訓練は課すがな!」


 そう言って奏華はまた豪快に笑う。

 美人なのにこういうところは残念だよなあ……。

 はあっとため息を小さく吐きながら肩を落とす。


「それで、早めに終わらせてもらっていいですか?俺、ホントは今日は学校に登校しなきゃいけないんですからね」

「ん?ああ、そうか。平日か。SSSをやってると曜日感覚がバグっちまうな!ははは!」

「どこが面白いのかわからないし、早くして下さい」


 俺があからさまに不機嫌さを示すと、奏華は少し申し訳なさそうに「悪い悪い」と謝り、座っていたソファから立った。


「廉、君は異常なほどの力量がある。これほどの逸材は紅羽以来だろう」

「な、何ですか急に。褒めても何も出ませんよ。気持ち悪い」

「お前にとって私の印象はどうなってるんだ……」


 奏華は呆れながらも咳払いで仕切り直す。


「廉、お前には新たに創設する部隊に入ってもらう。あ、これ委任状ね」

「新しい部隊?あ、どうも」


 奏華から委任状を貰いながら言葉を反芻する。

 奏華は首を縦に振り、安心したように笑った。

 それと同時に、扉からノックの音が響く。


「お、丁度来たな。入れ」

「ちょうどって一体誰が……」


 俺は開かれた扉の方を見る。

 一入って来たのは二人。一方は、銀髪の小柄な体をした胡散臭さのあるイケメン。

 もう一人の方は……。


「あ、オレンジの人」

「君はさっきの……」


 なんと先程の少女だった。


「何だ、廉。もう知り合いだったのか?」

「いや、さっきそこの廊下で会って……」

「お、なんやなんや。団長はん。ワイも話に混ぜてや」


 その言葉を放ったのはイケメン君の方。

 か、関西弁……?

 彼はこちらに目を向ける。


「おお、アンタが噂のやっちゃな。随分身長高くて羨ましいわ」

「は、はあ」


 し、身長が高いって……。俺、173センチで平均的だけど。

 まあ、彼からしたら高いんだろうな。見た感じ165センチ程度だ。

 そこへ奏華がイケメン君の頭にチョップをかます。痛そ。


「おい、いつまでも喋ってないで自己紹介しろ」

「いてて……。ああ、そうやったな」


 彼はそういうとすぐさま敬礼。えっと……、俺もやった方がいい?


「別にやらなくてもいい。みんなが真面目すぎるんだ」

「心読むのやめてもらえます?」

『そうですよ!廉の心を読むのは私の特権ですよ!』


 クラーは黙ってろ!

 俺はクラーにツッコミをいれながら再び向き直る。


「SSS二尉。薪路まちみちシンです!」

「おう、俺は廉。神崎廉だ。階級は……」

「一尉だ」

「だそうです」


 戸惑っていると、奏華がフォローしてくれた。ありがとうございます。


「い、一尉!?マジでなん!?」


 俺が奏華に心の中感謝していると、シンが何故かめちゃくちゃ驚いてた。


「わざわざそんなことで嘘は吐かん。本当のことだ」


 一尉ってことは一番上の階級なのか。

 まあ、いきなり一番上はやばいかもしれないが、奏華なりの俺への信頼なのだろう。

 ここは甘んじて受け入れてしまおう。


「え、あかん。ワイさっきの態度アカんかったかもしれん。ホンマ、スイマセン!」

「ええ、いいよ。むしろさっきの方が俺は助かる」


 俺はそう言ってシンに頭を上げるように促す。

 胡散臭さはあるけど、意外と真面目なんだな。

 と、ふと俺の服がクイっと引っ張られる。

 引っ張られた方を見てみると、「オレンジ色」と連呼していた先程の少女が俺の服を摘んでいた。


「えっと……?」

「………アリス」

「え?」

「私は志瀬こころせアリス。よろしく。廉」


 そう言ってはにかむアリス。

 ああ、ほっこりするなあ。

 何と言うか、猫動画を見ているような、そんな感覚。


「おう。こちらこそよろしく。…………ところで、そろそろ離してくれない?」


 俺はそう言いながら服の掴まれてる部分を手放してもらえるようにアリスの手を引き剥がそうとする。

 すると今度は俺の手を掴んできた。


「捕まえた」

「ちょっ、本当に離して……っ!」


 俺は掴まれてる手を引こうとするがびくともしない。

 この子っ、意外と力が強いっ!


「やめんかい」

「あいたっ」


 するとそこへシンがアリスの頭にチョップをかました。

 アリスは俺の手を離してくれ、チョップされたところを痛そうにさすっている。


「シンちゃん、何すんの」

「それはこっちのセリフや。人にいきなり迷惑かけて何様のつもりや。この人はなあ、目上の人なんやぞ」

「それはシンちゃんの背が低いからでしょ」

「背は関係ないわ!物理的な話やない!立場の話や!立場の話!」

「私にとってはそんなのどうだっていい」

「おんまえ、昔っからそういうところがなあ……っ!」

「えっと、二人とも、喧嘩は良くないからね……」

「廉は黙ってて」

「そうや!これはワイとアリスの話や!」

「は、はい……」


 俺が仲介に入ろうとするも、綺麗に突っぱねられてしまった。


『廉の意気地無し』


 ううっ、返す言葉もありません。

 ふと奏華の方を見る。

 彼女は彼女で、「ああ、またか……」と言いたげな呆れた顔をしていた。


「総団長、二人はどういう……」

「ん?ああ、従兄弟だ。従兄弟」

「ああ、なるほど。どうりで」


 妙に似てるなと思ったんだよ。

 二人とも銀髪だし。


「驚かないんだな」

「まあ、雛と恋人になればこれぐらいは……」

「ああ、なるほど。あいつ、学校ではどうだ?元気にやってるか?」

「元気どころか、毎日厨二病を惜しみなく発症させてますよ。前なんて『ふっ、アイズ・オブ・クイーンの前では全てが無力。我の前に沈め……っ』とか、めちゃくちゃ痛いことを学校内のナンパ野郎に言って退散させてましたよ」

「何だそれ?雛のヤツ、そんな恥ずいことよく公衆の面前で言えるな……」

「俺もそう思いますよ……。もう慣れましたけど」

「その話、詳しく聞きたいですねえ。廉先輩?」

「いや、主に雛が暴走した話しか……って、紅羽!?」


 雛の話をしていると、いつの間にか紅羽が俺のすぐ隣に立っていた。

 もうちょい気配を出して欲しいもんだ。心臓に悪い。


「いやー、癖なんですよねー」

「心の中読むのやめてもらえます!?」

「いやー、癖なんですよねー」

「それ二回目……」


 紅羽はヘラヘラと笑いながら、何気なくテーブルに置いてあった紅茶を上品に飲む。

 この紅茶、どっから出て来た?


「ああ、紅羽か。お使い、お疲れ様だ」

「いえいえ、これくらい働いている範疇に入りませんよ」


 そう言って、紅羽は一本の枝を奏華に手渡す。


「それは?」

「ああ、これか?これは君専用の武器だ」

「はい?」


 思わず耳を疑った。

 え、俺、この枝一本で戦うの?


「正確に言えば、これから君専用の武器へと生まれ変わるモンやな」

「あ、喧嘩が収まってる」

「悪かったって……。で、これなんやけど、これは『神樹の小枝』と言われる特殊な枝でな。人の心に敏感やねん」

「ふむ。なるほど」

「それで、その枝に自分の心、すなわち異能力を注ぎ込むと、何とあら不思議!小枝が形状変化してその人の異能力に合った武器が形成さるんや」

「おおっ!」


 随分と分かりやすい説明をありがとう。

 あと、アリス。俺の膝の上に座るのはやめなさい。めっ!


「ちなみにですけど、小枝を変質させてきた人の約9割は剣、もしくは刀でしたね。とか言う私も、そして雛パイセンも二人とも剣でした」

「へー。他のみんなは?」

「ワイも剣やったで。ただ、他の人よりもずっと大きい大剣やけど」

「私は二丁拳銃だったぞ。変質した時はロマンがあって嬉しかったが、その後の訓練がホントに大変だったのを覚えている」

「私は筆」

「へえ、みんなそれぞれあって……え、筆?」


 なんか、予想の斜め上を行ってる人が若干一名いるんですけど!?


「そんなことよりもほれ、お前の小枝だ。さっさとやれ」


 奏華は軽くポイっと俺の方へ枝を投げてくる。

 俺は慌ててそれをキャッチして、少し胸が高鳴る。

 俺専用の武器。聞いただけでロマンを感じる。

 が、期待とは裏腹に緊張が俺の全身を駆け巡る。

 いや、怖えぇ。


『いや、さっさとしてくださいよ。専用なんですから最適な武器が出るはずです』


 ガチャみたいな言い方……。いやまあ、実際ガチャのようなモンなんだけど。

 けど、これで俺の戦い方が決まるんだぞ。緊張するだろ。


『大丈夫です。廉ならきっと伝説級の武器が出ますよ』


 いや、だからガチャかっての。

 けどまあ、そうだな。

 どんな武器だろうと、きっと大丈夫なはずだ。そう信じて。

 俺は小枝に自身の異能力を注ぎ込もうと集中する。


「……ふんっ!」


 そして、小枝に俺とクラーの異能力の情報を注ぎ込んだ。


「「「「……っ!」」」」


 え、あれ?この小枝、結構なリソース量を吸うな。こんなもんか?


 一方、他の皆の思考ー


(な、何やこれっ!圧倒的なリソース量っ!座ってるこの状態でも押しつぶされそうや……っ!)

(強いことは分かっていたが、ここまでとはな……。紅羽すらもキツそうな顔をしているし……)

(え?何これ?何なんですかこれ。いくら何でも多すぎません!?もう既に私の全リソース量以上の量をあの小枝に注ぎ込んでるんですけど!?え?小枝に吸収されるリソース量って1000分の1以下ですよね?異常ですよ、異常!)

「ばたんきゅー」

「「「アリスううぅうう!!」」」


 なんかみんなが叫んだような気がするけど集中して聞こえてなかったわ。

 と、そろそろ完成か?


『廉、完成です』

「あいよ」


 俺はリソースの供給を止めた。

 刹那、小枝が光に包まれる。

 あまりの光の強さに一瞬目を瞑ってしまうが、光はすぐに消え、俺は目を開ける。

 すると、そこには一本の大鎌が俺の手に握られていた。


「おおっ!カッコいい!どう、みんな?……って、どうした」


 なんかみんなが嵐の過ぎ去った後のような惨状でソファに座ってるんだけど。

 アリスに関しては倒れてるし。


「えっと、なんかあった?」


 俺のその質問に対し、みんなはー。


「「「な、何でもない……。……ぜえ、……ぜえ」」」


 と答えた。

 いや、絶対なんかあっただろ。


「ばたんきゅー」

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