第22話 変わる日常、仲間

「お、廉。やっとの登校だな。仮病か?」

「うっせえ。仮病じゃねえわ」


 俺はあの後、学校へ急いで登校していた。

 まあ、急ぐと言っても異能力で空間を圧縮して転移したから、着くのに1分も掛からなかった。


『力の無駄使い』


 あー、あー、キコエナイー。

 これは正当な使い道であって、無駄使いとかそういうんじゃないー。

 首をブンブン振って否定すると、クラーはため息を吐く。


『一応、この力は私がいるから成立しているので、私が抵抗してしまえば異能力は使えませんからね』


 大変反省しておりますっ!

 心の中で土下座をかましながら席に着く。

 はあ、なんか疲れた。

 アリスに引っ付かれるわ。シンに振り回されるわ。奏華に怒られるわで、もうベッドにダイブしたい気分である。


 まあ、この学校にも、安心出来ない奴が一人いるんだけどな。


「やあ、廉君。君の猛々しい魔王の風格は、このアイズ・オブ・クイーンには眩しく見えるがそれでもわたしは君のー」

「あー、うん。雛、もういいから」

「まだまだこれからだ!」

「何がだよ!?」


 やはり雛が来てしまった。

 クラス違うのによく来るな。


「全く、やっぱり今日は休むんだった」

「ふ、私のスーパーブレインが言っている。君に休暇は無いのだと!」

「そんな学校にいたら、俺どころか全生徒が学校を訴えとるわ!」


 どこのブラック企業だよ!?


『……雛さんって、いつもこんななんですか?』


 う、うん。

 なんというか、少し頭がおかしくて……。


『なんて素晴らしい口上なのでしょうか!是非とも見習いたいです!』


 クラーあああああぁああ!?

 ちょっと!?クラーさん!?雛に毒されちゃダメだよ!?


『毒されてなどいませんよ!むしろ廉も見習ったほうがいいですよ!』


 誰が見習うか!

 ウチのクラーがおかしくなっちゃったんですけど!?

 俺たちがわーぎゃーと騒いでるうちに、予鈴がなる。


「おや、もう廉君との別れの時間か。時とは過ぎ去るのが早いね」

「いいからさっさと行け。お前といると頭がおかしくなる」


 主にクラーが。

 俺の言葉が気に食わなそうに、雛は頬を膨らませる。

 だが、あーだこーだ言ってる暇は無いため、雛はすぐさま自身の教室へと戻っていった。

 雛が出ていったのを見て俺は安心の意を込めてそっと息を吐く。

 や、やっと解放された。

 ほんの五分程度でここまで疲れるとは思わなんだ。

 はあ、縁切りてえ……。


『じゃあ切ればいいじゃないですか』


 無理。好きだもん。


『何なんですか、この天邪鬼は』


 と、クラーとの会話を楽しんでいると、先生が教室に入ってきた。

 ええと、授業は物理だから確か担任の先生の授業でー。


「はーい!今日からこの学校で物理を担当する薪路シンとー?」

「志瀬アリスでーす」

「「よろしくー!」」

「「「「「…………」」」」」


 二人が自己紹介した瞬間、教室の空気が凍りついた。

 冬とはいえ、氷点下いってない?これ。

 いやいや、それよりも何であの二人がここにいるんだよ!?

 俺は教壇から見えないようにスマホを隠しながら奏華にメッセージを送った。

 送ってから約4秒で既読。仕事サボってるのかな?

 あとで月詠に連絡いれとこう。

 奏華から返信が来たのは既読がついてから約10秒。うん、確定でサボってんな。

 送られてきたメッセージの内容はこうだった。


『せいぜい頑張れ(笑)』

「……」


 俺は無言で月詠に通報して、奏華のラインを通知をオフにした。

 まあ、奏華の言い振りからして、確実に奏華の指示だ。

 親睦を深めろとかそういうのだろ。

 と、そんな十数秒でも、二人の暴走劇は止まらなかった。


「いやな、ワイの家の向かいに住んどるばあちゃんがな、腰が悪いらしくてな」

「うんうん。それで?」

「腰がコ⚪︎シーみたいになっとるんよ!」

「わー、おもしろーい」

「「「「「いや、突っ込めよ!」」」」」


 体育祭は終わったのに、クラスの心が一つになった。

 こんな場面で心が一つになってほしくなかった。


「あ、廉!さっきぶりやな!」


 つまらない茶番の中、白羽の矢が俺に立つ。

 みんなの視線が俺に一点集中だ。

 やめて!恥ずかしいから俺に話しかけないで、二人とも!

 俺の懇願も叶わず、二人からの攻撃は終わらなかった。


「廉。今日からよろしく」

「よろしゅうな!廉」

「あ、あはは……はあ」


 何でこんなことに……。

 神さまなんていないモンなんだな……。


『シンの言葉から電気信号を感知しました』


 クラーの声が突然頭の中に響き、俺の肩がビクッと震える。

 毎回心臓に悪いなあ。


『う、スイマセン……』


 まあ、いいんだけどね。

 それで、電気信号って?


『シンの声から電気信号が発せられています。解読は完了していますよ』


 読み上げてくれ。

 そう頼むと、クラーは解読済みの電気信号を読み上げる。


『廉、あとで話がある』


 随分と淡々と、短い文章だったな。

 というか、話?

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