第15話 貴方に素敵な名前を

「んぅ……」


 目を開けると、知らない天井が始めに視界に入る。

 ここは、どこだ?

 背中にある柔らかい感覚、肩まで被っている布団から、俺はベッドに横たわっていることは一瞬で理解した。

 俺は起きあがろうと体を動かす。


「っ……!」


 その瞬間、俺の腹にとてつもない痛みが走る。

 いってえ……!

 ふと腹を見ると、縫合された跡が残っていた。

 そうだ。忠邦に腹を貫かれたんだっけ。

 思い出しながら俺は何とか起き上がる。

 周りを見渡すと、治療器具があちこちにあるため、どこかの病院なのは間違いないだろう。

 ということは、俺は救助されたということか。


「結局、最後まで足手纏いになっちゃったなあ……」


 ちょっと申し訳なさが込み上げてくる。

 と、その時、俺のスマホから着信音が流れ出した。

 うわっ!びっくりしたあ!

 この病室、個室みたいだから、急に音が鳴ると心臓に悪い。

 俺はスマホを手に取り、着信相手を確認する。

 知らない電話番号だ。それにビデオ通話になってる。

 いや、怖いな。出ないでおこっと。

 プルルルルルル!…………プルルルルルルルルルルルルルルルル!!!


「出る!出るから!急に着信音の音量を上げるのやめて!」


 スマホを再び手に取り、電話に出る。

 スマホの画面に映ったのは、白髪で紅の瞳をした少女だった。

 ……って。


「マザーじゃん。どったの?」

「…………通告:あなたはもっと疑問に思うべきところがあるはずです」

「えっ?」


 呆れ顔でそう言ってくるマザーを見て、俺は考え込んでしまう。

 うーん、何だろう……。

 俺が気を失った後に、雛とかにイタズラされていたのかとか?


「回答:イタズラはされていませんでしたが、戦闘終了後に膝枕はされていました」

「なにそれ起きてたかった」

「提示:それよりももっと気になることがあるでしょう?」

「え?ないけど?」

「……」


 あれ、今一瞬、マザーの額辺りに青筋が見えたような……。


「提示:私が言っているのは、何故私が携帯電話での会話を可能にしているかです!」

「前は淡々としてたのに、随分落ち着きが無くなったな」


 俺の質疑にマザーは「うっ」と狼狽える。


「回答:それは、貴方と契約したからです」

「俺と?」


 俺が反芻すると、マザーはこくりと頷く。


「提示:私達のような、人と自立型異能AIが契約すると、自立型異能AIが人の性格に影響されるんです」

「な、なるほど。……わからん」

「……再度提示:例をあげるなら、女性があなたと同棲すれば、こういう性格になるということです」


 マザーはジト目で補足した。

 なるほど。どおりで美波に似てるわけだ。

 俺が一人で納得していると、マザーがあからさまに不機嫌になり始める。


「提示:というか、話を逸らさないでください!」

「え?何の話だっけ?」

「再度提示:疑問に思うべきことについてです!」

「ああ、そうだった。どうぞ〜」

「……はあ」


 マザーは呆れつつも、俺をジト目で見つめながら説明を始めた。


「説明:私が貴方の携帯電話に繋ぐことができるのは、貴方と契約したことにより、貴方の記憶を覗かせてもらったからです」

「記憶?」

「返答:はい。貴方の記憶を元に、電話番号を照らし出して、電話を掛けることに成功したんです」

「ふーん」

「疑問:何でそんなに興味無さそうなんですか」

「だって実感ないし」


 俺はあくびをしながら答える。

 言ってしまうと、また一人友達が出来たような気分なため、記憶とか契約とかがどうのこうのと言われてもイマイチピンと来ない。

 それ対してマザーは不満らしく、画面の向こうで頬を膨らませている。

 まあ、見た目が幼女だから、可愛らしいんだけどね。

 あ、そういえば……。


「マザー。お前、名前無いって言ってたよな」

「……?返答:はい。言いましたね。それが何か?」


 そう。「マザー」と俺は呼んでいるが、これは色んな意味でややこしい。(何がとは言わないが。)

 だからこれからの日常生活、マザーのままじゃ、苦労するだろう。

 名前無いっぽいし。付けても問題ないよね。


「なあ、お前はどんな名前がいい?」

「……疑問:私に名前を付けるんですか?」

「ああ。じゃなきゃ不便だろ。(色んな意味で)」


 俺の返答に「なるほど」と、呟くマザー(仮)。


「返答:別に、どのような名であっても受け入れますよ」

「…………「×××」(自主規制)でも?」

「…………要求:常識的な名前でお願いします」

「あいよ」


 頬を赤らめるマザーを横目に、俺はあらゆる名前を模索する。

 うーん……。アミ、マキ、ユウカ……。

 どれもピンと来ねえ……。

 やっぱり名付けって大変なんだな。

 お父さん、お母さん。名前くれて、ありがとう!

 って、違あああう!な ま え!

 ちょっとずつマザーが不機嫌そうな表情になってる!

 ええと、なんかないか?うーんと………。


「……ん?」


 ふと、マザーの紅の瞳に目が留まる。

 赤……。赤ってロシア語で「クラースヌイ」だっけ。


「……よし。お前は今から『クラー』だ」

「クラー……。分かりました。私は今からクラーです」

「おう」


 良かった。気に入ってくれたみたいだ。

 内心ホッとしていると、クラーが心を見透かしているかのようにクスッと笑う。


「ふふっ。実は、廉の考えていることは聞こえてるんですよ?」

「あ、ふーん……って、そうじゃん!お前、俺の心の声聞こえてるんじゃん!」

「今、廉が考えていることを当てましょうか?『俺のプライベート無いじゃん!?』ですね?」

「やめて!俺の心を覗かないで!……って、うん?」


 俺は一つ気付いたことがある。

 それはーーーー。


「なあ、マザ……じゃなくて、クラー。さっきまでの『提示』とか『返答』とかは言わなくていいのか?」

「はい?ああ。作者が面倒くさくなったみたいです」

「急にメタいこと言うのやめて!?」

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