第28話 最強は俺だ!
「「「アメリカだああああぁぁああああ!!」」」
「うるさいぞ、雛」
「何で私だけ!?」
空港を出た途端に叫び出す雛、紅羽、シンを宥めつつ、俺は辺りを見渡す。
奏華の話では、迎えが居るはずなんだが……。
ふとスマホに目を落としても、約束の時間はとっくに過ぎている。
「こりゃあ、遅刻してくるな……」
「迎えがですか?えー!?せっかく強いやつと戦えると思ってたのにー!」
「出た……!紅羽ちゃんの戦闘狂……!」
「アリス。そんな目を輝かせて見るようなモンじゃないから……」
「なあ、廉。そんなら、観光をちょっとしてもええんちゃうかー?」
空港の出入り口でギャーギャー騒ぐこの姿は、なんともこの後が心配になるものだ。
奏華……、お前は人選を間違えたぞ……。
遡ること4日前──。
「お前の隊と雛の隊、そして紅羽にはアメリカに行ってもらう」
奏華の口にから出た言葉が、あまりにも急すぎて、俺は声すら出せなかった。
「ああ、異動というわけじゃない。これはいわゆる『交流会』というものだ」
俺の心を汲んだかのように、奏華は落ち着いた様子で言葉を紡ぐ。
最初は驚いたものの、奏華の様子を見て落ち着いてきた。
「交流会ですか?それはどういうもので……」
「なに。簡単で、文字の如くの行事だ」
奏華は茶を啜り、はあっとため息を吐く。
「毎年、各国のあらゆる育成しがいのある隊員を開催国へ派遣し、そこで鍛えるという行事だ」
なるほど、強化合宿みたいなものか……。
面白そうではあるし、シンとアリスを鍛えるのにも丁度いい。
が、一つ疑問がある。
「あの、何で紅羽と俺も一緒に行くんですか?言っちゃ自惚れですけどアイツと俺は行く必要ないでしょ」
紅羽はこの国の治安の抑止力だし、俺に関しては紅羽と同等以上に強い。
ハッキリ言って行く必要性が無いのだ。
なぜ俺と紅羽も行かなくてはならないのか。
「ああ、紅羽は心がまだ幼稚な部分があるし、お前に関しては言うこと無しだから保護者として行かせることにした」
「そんなことで!?」
紅羽は分かったが、俺を行かせる理由が納得いかねえ!
「ほれ、話は終わりだ。帰った帰った」
という感じで理不尽にアメリカに来させられたのだが──。
「廉、アレ何?」
「うっひょー!アメリカやー!」
「強い奴はどこですか!?先輩!」
「ふっ!我が巨氷に抱かれよ……っ!」
……もう、帰りたい。
「あの、大丈夫ですか……?」
俺が泣きそうになっているところに、雛の隊員が心配してくれる。
「ああ……。大丈夫だ。ありがとう」
「いえ、そんな……。私は何も……」
俺を心配してくれた茶毛の女の子は、とても謙虚にペコペコ頭を下げる。
とても雛の隊に所属しているとは思えないほどいい子だ。
ちなみに、雛の隊で来ているのは、この子と雛だけである。
奏華に聞いてみたところ、雛は心の問題があるため寄越したらしい。気持ちは分かる。
「あ、あの……私のこと、覚えてますか……?」
「ん……?」
茶毛の子が控えめに聞いてくる。
はて、どこかで会っただろうか……。
「その、前に助けていただいた……」
「ああ、もしかして奴隷商で俺に抱きついてたあの子か?」
俺がそう言うと、その子はパアッと花を咲かすように笑う。
「はい。私、
「おお、やっぱりか。こうして会えると、なんだかむず痒いな……」
なんというか嬉しいのと照れそうな感情が混じっているような感じ。
目の前に、俺が救った人が居るって、何だか変な気分だな。
『…………』
……?クラー、今何か言った?
『いえ、何と言うか……』
「おお!集まってるなあ!」
クラーが何か言いかけたところで、誰かが俺の頭を掴んで話しかけてきた。
「ガルザン、客人なのですから丁重に」
「あ?俺の誠意を目一杯表現したボディタッチだよ。な?兄弟?」
「は、はあ……?」
俺は彼の発言よりも自分が後ろを取られたことに驚きを隠せずにいた。
油断もしていなかったし、クラーも警戒していたはずだ。
なのに全く気配を感じなかった。
コイツの異能力……いや、メガネをかけたもう一人の敬語を使ってる方か。
僅かに異能発動のリソース消費を感じる。
「アンタらは……?」
俺は男の手を頭から退かし、警戒を緩めず尋ねた。
「失礼。私の名前はジェンサ・ハルゼンです。で、こっちが──」
「俺はガルザン・ボルゼルカン。一応、世界最強のSSS隊員だ」
「ちょっ……」
俺はヤバいと思い、ガルザンを守る体勢に入る。
紅羽の目の前で「最強」とか言ったら……!
「『雷帝』!」
案の定、紅羽はガルザンを襲いに掛かる。
俺は時空を歪ませて攻撃を無効化しようとするが、それよりも早く、ガルザンが動いていた。
ガルザンは右手を突き出す。刹那、紅羽が放った雷撃はガルザンの右手へ吸い込まれていった。
しばらく沈黙が辺りを包む。
幸いだったのが、俺ら以外の人が辺りに居なかったこと。
見られていたらマジでヤバかった。
沈黙を切り裂いたのは、車のブレーキ音だった。
「皆様、車をご用意いたしましたのでお乗りください」
ジェンサが無表情でそう言い放ち、車の扉を開ける。
本当に準備が良いこって……。
俺らはその場で何も無かったかのように車へと乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます