第1話 この契約は大切に
あれから一年後。
流石にここまで時が流れていれば、少しは気持ちが冷めてくれるかなと思っていたのだが……。
「廉君。君からはまるで、魔王の如く孤高の強さを感じるよ……!」
「…………」
むしろ熱が上がっている一方だった。
なぜだ……。なぜこうなった……。
ってか魔王って何だよ。俺が魔王ってか?
つまり俺は物語内で悪役ってことか?
いや、シンプルに嫌なんだが。
「廉君、なんか顔が凄いよ」
「……それは思っても言わないでほしい」
「ふっ。廉君、私には呪いがかかっていてね。思ったことをすぐに言ってしまう呪いなんだ」
「社会的にクソじゃん、それ」
もし就職した時、すごく苦労するやつじゃん。
それに呪いじゃなくて癖っていうんだよ。バカ。
「私はバカではない。神だ」
「……おい、自称“神”。俺の心の中を読むのはやめてもらおうか」
「ふっ、神としての当然の所業だね」
「褒めてないからな!?」
ああ、もうヤダ!疲れる!
何でこんな思いをしなくちゃいけないんだ!
俺は座っていた教室の席から立ち上がり、目にも止まらぬ速さで教室を去った。
こうなったら逃げるが勝ちだ!
「あ、廉君!待てー!」
後ろから雛の声がして、走りながら後ろを向くと……。
「待てやゴラァ!」
「そんな鬼の形相で追いかけてられたら誰しも逃げるだろ!」
雛の顔はもう、鬼のような荒れっぷりで、見た瞬間、「あ、これ捕まったら殺やられるやつだ」と察してしまうものだ。
こりゃあ、逃げるしかないでしょ!
そんな感じで廊下を全力ダッシュで走っていると、「またやってる」「ホント仲良いよね」などの生温かい視線が多く向けられてくる。
最初は「何だあいつら」といった視線を向けられ、帰った後死にたくなるほどだったが、今では皆、俺たちを見守りモードで傍観している。
何でだよ。助けろや。鬼の形相で追いかけられてる時点でおかしいと思えよ。
と、もうすぐ下駄箱に着く。そこで速攻外履に履き替えてそれで……。
「…………ん?」
あれ、なんか床に足がついている感覚がないんだけど。それに全然前に進まない。
そこで俺はやっと気付く。自分が何者かに首根っこを掴まれているということを。
ふと後ろを向くと……。
「黒宮先生……!」
高身長で有名なイケメン先生が俺の首根っこを掴んでいた。
「おい、神崎。俺の前で廊下を全力疾走とは大した度胸じゃないか」
「いや、これは雛が……」
「ほう……。七瀬!」
「はい!」
黒宮先生が雛を呼ぶと、雛は先程の鬼の形相はどこへやら、綺麗な姿勢で黒宮先生の前に立っていた。
「神崎が七瀬云々言っているんだが、どういうことだ?」
「おそらく、廉君は私に追いかけられたと勘違いしているのかと!」
「ふむ、勘違いねえ……」
「はい!」
「ちょ、おま……」
抗議しようと口を開いた瞬間、掴まれていた首根っこが解放され、俺はびっくりして受け身を取れずに尻餅をついた。
「ってて……」
「神崎、七瀬。後で職員室に来いよ」
「え、何で私も!?」
そう疑問を口にした雛を、黒宮先生は片手を突き出して制す。
黒宮先生曰く、これは落ち着けという意味らしい。
「お前も廊下を走ってたのは事実だからな。バッチリ生活指導対象だ」
「そんなぁ」
うん、なんというか、なんかごめん。
ちなみにこの後、黒宮先生にバカ怒られました。
♢♢♢♢♢♢
あの後、しっかり生活指導を受けた俺たちは、共に帰路についていた。
ちなみに、雛はブツブツと愚痴をずっと溢している。
「別にあんなに怒らなくてもいいのに……」
「何回それ言ってんだ。いくら愚痴を溢したって何の得にもならないぞ」
「いや、愚痴をこぼすと少しだけストレスが緩和すると科学的に証明されてるよ」
「お前、何でこういうところは現実的なんだよ……」
いつもの感じじゃないと、なんかむしろ何かあるのではと疑ってしまう。
それくらいには互いのことを知ってしまった。
ほんと、厄介なもんだよ。厨二病は。
「っと、俺、こっちだから」
「うん。もう暗いから気をつけなよ」
「それはこっちのセリフだ。お前、かなりかわいい女の子なんだから警戒して帰れよ」
「おや、廉君は私がそう簡単にやられると思ってるのかな?」
「あー、はいはい。そうですね。自称“神”様」
「自称じゃないもん……」
そう言って頬を膨らませる雛に微笑みつつ、俺は自身の帰路へと歩き出した。
「じゃ、また明日」
「う、うん……」
聞こえてきた言葉に、ちょっとだけ迷いを感じたが、わざわざ気にしてやる義理は無いので、スピードを緩めず、そのまま歩くと……。
「廉君!」
ふと後ろから俺を呼ぶ声がして、そちらを向くと、雛がこちらへと走り寄って来て……。
「……!」
雛はそのままの勢いで、一瞬ではあるが、確かに俺の唇にキスをした。
そして雛は何もなかったかのように走り去って、先程の分かれ道で手を振っている。
全く……。
「……ホント、厨二病ってことを除けば、ただの可愛い女の子なんだけどな」
俺はそうボソッと呟いて、雛に手を振り返しながらその場を去ったのだった。
♢♢♢♢♢♢
廉君と別れた後、私はやってしまったことに滅茶苦茶悶えていた。
「あああ!何であんなことをしたの、私いいい!!」
思い出すは、あのキスの瞬間。
アレを思い出すだけで、顔が火傷するくらい熱くなってどうしようもなくなる。
「いくら契約の為とはいえ、やり過ぎだったかな……」
※彼女個人の見解です。
私にとっては、あのキスがハジメテだった訳で、そりゃ、相手が廉君で良かったとは本気で思ってるけど……。
「いやらしい女だって思われてないかな……」
私にとって彼はなくてはならない存在だ。
そんな彼に嫌われてはいけない。
破綻すれば契約もなしになるのだ。※彼女個人の見解です。
「私は神だ」
そう、私は神。
私は彼を立派に育て上げる義務がある。
だからこの関係を崩壊させてはダメなのだ。※彼女個人の(以下略)
「……よし!がんばろ!」
私はそう呟いて、帰路へと着いたのだった。
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