第13話 世界を揺るがす力

「廉、君……?」


 雛が困惑の声を上げる。

 先程まで、廉の腹には貫かれたような穴があったが、今ではそれが綺麗さっぱり無くなっている。

 それどころか、いつもは藍色であるはずの廉の瞳が、今では紅く染まっている。

 廉は雛の声には反応せずに、そのまま忠邦のほうへと向く。


「生きてやがったか。小僧」

「肯定:神崎廉にはやってもらわなければならないことがあります。」


 忠邦がニヤリと笑い、廉は無表情に淡々と語る。

 ふと、忠邦が違和感を覚えた。

 “神崎廉には”と、言っていた。

 自分語りのようで、自分のことじゃ無いような言い方。


「おい、小僧。……いや、てめえ、誰だ」

「……」


 廉が急にだんまりしてしまう。

 何かまずい事でもあるのだろうかと思ってしまうような態度だ。

 流石に、忠邦や雛もこれには気付いた。


「廉君は、どこ……?」


 雛が廉の形をした何かにそう問いかける。

 それに対して廉は……。


「返答:その質疑を答える前に、私は敵を倒さなくてはなりません」


 と、忠邦の方に目を向けたまま言った。


「おいおい、もう勝った気でいるのかよ」

「提示:戦えばすぐに分かります」

「そうか……よっ!」


 忠邦は言葉と共に、目にも止まらぬ速さで廉の懐に踏み込む。

 そして隙なく右の拳に硬質化を付与。

 そのまま廉の腹へ叩き込まれるかと思われたがーー。


「解説:甘いです」

「なっ……」


 廉は左手でその拳を受け止めた。

 忠邦はこれに驚愕していた。

 拳は人間が反応できないほどの速度で振るった上、硬質化でとてつもない硬さだ。

 素手で受け止めきれるなんて、常識を超えている。

 忠邦が驚愕している隙に、廉は容赦なく刀を忠邦に振る。


「ぐっ……」

「…………」


 忠邦は間一髪で避けたが、それだけじゃ終わらない。

 廉の姿が忠邦の視界から急に消える。


「どこだ……!」

「返答:ここです」

「なっ……!」


 気付けば、廉は忠邦の後ろに回り込んでいた。

 廉はすかさず蹴りをかまし、これは見事に決まる。

 忠邦は壁へぶつかり、豪快な音と共に吹っ飛んでいった。


「……す、すごい」


 雛は驚愕した。

 つい先程まで未異能力者だとは思えないほどの実力だ。

 下手をすれば紅羽と並ぶほどに。

 だが……。


「ガッハハハ!いいねえ。こんなに楽しめそうな奴と戦うのは久しぶりだ」


 ただ、それ以上に相性の良し悪しは埋められない。

 忠邦の異能力は硬質化。

 自身の体を極限に固くする、強化系異能力だ。

 よって、その硬さを砕くほどの威力で叩かない限りは絶対に勝てない。

 忠邦もそれに気付いている。


「小僧、てめえは俺には勝てないぞ」

「肯定:今のままではそうでしょうね」

「……どういう意味だ」


 忠邦がキッと廉を睨みつける。

 だが廉は相変わらず淡々としたまま口を開いた。


「疑問:今まで気付いていなかったのですか?私はまだ、異能力を使っていませんよ?」

「はっ!それがどうした。お前の異能力が何であろうと、俺に攻撃は届かない」


 何とも傲慢だろうか。

 だが、今まで破られたことがないのかもしれない。だからこそ、あの自信は当たり前だと言える。

 しかし、廉はそれに臆することはなかった。


「決断:そんなに自信があるのなら、受けてもらいましょう」


 廉はそう言うと、刀を空に振った。

 一見すると何の意味もない行動に見えるが……。


「がああああああ!!」


 何故か、忠邦の腕が切り落とされた。

 忠邦は何が起こったのかも分からぬまま、痛みに悶えている。

 一体何が起こったというのか。

 そんな思考すらも許さないと言わんばかりに、廉は今度は足を前へと進みながら刀を構える。

 と、その瞬間、廉がその場から消えた。

 いや、正確には移動した。

 廉はいつの間にか忠邦の目の前に立っており、首に刀を振る。


「ぐうううっ!」


 だがかろうじて忠邦は首に硬質化を発動させ、何とか弾き返す。

 廉は弾き返された反動で体勢を崩してしまい、その瞬間を忠邦が見逃すはずもなく……。


「『手刹』!」


 硬質化させた手刀で、廉の左腕を切り落とした。

 廉は大きく後ろへ後退し、刀を構える。

 よし、いける。忠邦がそう思ったのも束の間。

 忠邦が一瞬だけ瞬きした直後、切り落としたはずの廉の左腕が元に戻っていた。


「な、なぜ……!」

「説明:異能力によるものです」

「バカな!じゃあ、さっきの斬撃は何だったんだ!?」


 忠邦の疑問に、廉は無表情で答える。


「返答:それを一括で行える異能力です」

「答えになってねえぞ」

「解説:私の異能力は、あらゆる概念を操作するものです。これで良いですか?」

「なっ……!」


 忠邦は驚愕して声が出ない。

 概念の操作。つまりは、不可能を可能にしてしまうということだ。

 先程の斬撃は、空気圧を操作して発生させたものであり、一瞬で距離を詰めたのも、距離を操作し、腕の再生は時間を巻き戻したために出来たことである。

 言ってしまえば、彼が望めば、絶対に死なないような異能力ということだ。

 勝てるわけがない。忠邦はそう悟った。


「提示:敵意はもう無いようなので、拘束させていただきます」


 廉はそう言って、指をパチンと鳴らす。

 その瞬間、忠邦はその場から消えてしまった。


ー地上ー


「桑田忠邦、逮捕!」


 忠邦が送られた先は、SSSの作戦本部だった。

 ちなみに、忠邦が大人しいのは、廉が送りついでに気を失わせたからである。


 神崎廉、世界をも簡単に変えてしまう異能力を手に入れた彼は、今後、どのような道を選ぶのか。

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