第三章 吸血姫は青薔薇に憧れる・④
ソフィーはもう300年は生きているそうだ。苦手な太陽ももう克服したらしい。それでも吸血鬼の中では最年少で、ローランさんや召使いのみんなに至っては軽く1000年を過ぎているんだって。血を吸うのは下品なことと言われていて、薔薇の香りで普段は生きているらしい。ソフィーから甘やかに香る薔薇の名残を、僕はもっと大好きになった。
「確かにわたくし達は不老不死で人ならざる力を持つわ。でもね……その代償に子供を成すことが出来ないの」
不老不死の最大の代償は永遠の孤独だった。
「ただ一つそれが許されるのは己の『青薔薇の乙女』と最初に愛し合ったその時だけ。お兄様が己の『青薔薇の乙女』を見つけた時は独占欲の塊になって、わたくしは勿論、お父様、お母様でさえ100年は近寄らせてくれなかったそうだわ」
「100年は長いね……」
「いいえ、わたくし達にとってはあっという間よ?ジャックもわたくしと愛し合えば、そう思うようになるわ」
そうかな、と僕はソフィーの胸の中で考えた。でも100年は……長すぎると思う。
僕はおばあちゃんになって死んじゃうんじゃないかなあ。
「うふふ、愛し合った時にわたくしの命を共有することになって、ジャックも永遠を手に入れるのよ」
それならあっという間かもしれないね。
「でも……いくらわたくし達が永遠を生きると言っても、己の『青薔薇の乙女』が見つかることは奇跡でしかないの」
ソフィーの指先が愛おしむように、僕の大事な所にある青薔薇の証を撫でた。
「ジャックの危機を……この『幸せの青い薔薇』が血に汚れることでわたくしに知らせてくれなかったら。もしもを思うだけで今でも……本当に恐ろしくてたまらないわ」
『銀の騎士』達に暴かれた時はただただおぞましくて辛かっただけなのに、ソフィーが触れてくれるとお腹いっぱいに幸せが湧き上がってくる。
「僕はここにいるよ、ソフィー」
「ええ、お願いよ。ずっと……ここにいてね、ジャック」
ソフィーの唇が僕の頬に触れた。
初めてキスして貰った!
何て幸せなんだろう。
ソフィー、僕の大好きなソフィー。
もうどこにも行かない。
この腕の中が僕の居場所だから。
僕はソフィーに抱きしめられるまま目を閉じる。甘い薔薇の香りと穏やかな眠気に包まれて、ゆっくりと意識がとろけていく中……泣き出しそうなくらいに嬉しそうなソフィーの声がした。
「ああ!やっと、やっと大好きなジャックに『接吻』できたわ……これで少しだけ安心できそうよ」
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