第二章 夢のような現実・①

 目が覚めた僕は……天国みたいな所にいた。天蓋付きのふかふかのベッドの中で、滑らかなシルクのネグリジェを着て眠っていた。ふわふわした白い枕がまるで雲みたいで、顔を向ければレースのカーテン越しに青空と美しい薔薇の庭園が見える。赤、白、黄色、桃色……。すうっとそよ風が吹いてカーテンが揺れたと思ったら、甘い薔薇の香りがした。蝶やミツバチが明るい日差しの中を飛んでいて、ここは天国の楽園なんだと確信する。

「良かった……」

僕は天国にいるんだ。あのまま死んだけれど、何も悪いことをしていなかったから天国に入れて貰えたんだ。良かった、僕は死ねたんだ。

安心したら泣けてきた。

「良かった……焼かれて死ぬのは怖かったから……良かった……!」


 ひとしきり泣いたら、ぐう、とお腹が鳴った。喉も渇いた。急に恥ずかしくなって僕は我に返る。天国でもお腹って空くの……?

その時、人の声がして僕はぎょっとしてそちらを向いた。扉の向こうで誰かが言い争っている……?

直後、扉が開いた。

「まあ!目が覚めましたのね!」


 何て綺麗で美しい女の子だろうと思った。まるでお姫様みたいに長い金色の髪の毛がキラキラと輝いている。まとっているドレスは夜空みたいな色合いで、優雅で妖艶な彼女にとても似合っていた。

何より、真っ赤な薔薇みたいな華麗な顔立ちに、目を奪われてしまう。

彼女の背後にいる男の人も王子様みたいに格好よくて、同じくらいに美しくて綺麗だった。

顔立ちもそっくりだし、きっと兄妹か家族なのだろう。


 「良かったわ、本当に無事で良かった……!」

でも彼女は顔をグシャグシャにして駆け寄ってくるなり、僕を抱きしめて涙をこぼした。甘いのに優しい薔薇の香りが僕をそっと包み込む。

「あなたが無事で……本当に……!」

『無事で』?

……僕はおずおずと彼女に聞いてみる。

きっと彼女は僕を焼いたりしないだろうと、初対面なのに不思議と安心していた。

「僕は、生きているんでしょうか……?」

「ええ、間に合ったわ。でも……わたくしは弱っていた貴女を連れ帰るだけで精一杯だったの。ヒトの国に、貴女の大事な人は残されていないかしら?」

ズキン、と頭が割れるように痛んだ。あまりの痛みに僕は呻いて背中を丸める。

「いけない!」

彼女は僕を寝かせてくれて、

「ゆっくりと休んで頂戴ね、わたくしの大事な『青薔薇の乙女』……」


 僕はそのまま彼女に抱きしめられて、薔薇の香りに包まれて……眠った。

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