第二章 夢のような現実・②
目が覚めたときには彼女はいなかったけれど、代わりにベッドの隣に置かれたテーブルに美味しそうな飲み物や食べ物がずらりと並んでいた。カーテンと窓は閉められていて、綺麗な夜空が見えた。美味しそうな匂いに、ぐう、とお腹がまた鳴ってしまう。
でも……勝手に食べたら怒られたりしないかな?
床に落ちたパンを拾って食べたら、泥棒ネズミと鞭で何度もぶたれた痛みを思い出して、慌てて手を引っ込める。
痛いのが怖くてベッドの中でじっとしていたら、扉が軽くノックされて彼女が入ってきた。
「あら、お腹が空いていないのかしら?それとも気分がよろしくないの?」
彼女は僕を抱きしめて、どこか泣き出しそうな声で言う。
「……食べて良いのですか?」
艶やかで華やかな笑顔が何よりの答えだった。
「好きなだけどうぞ、お代わりもいくらでもあるわ。ここにある全ての料理は、貴女に食べて欲しくて作らせたのよ。でも嫌いなものや食べられないものがあったら遠慮無く言って頂戴ね」
「……ざ、雑草です」
「草?」
キョトンとした顔をする彼女に、僕は説明する。
「庭の雑草で、食べられるのがあるんです。そのまま食べてもあんまり美味しくなくて……でもどうやってもお腹が空くから……」
そう、と彼女は少し頷いてから、
「トマトのポタージュスープは食べられそうかしら」
「トマト……?」
聞いたことが無かった。
「ええ、ヒトの国には無いけれども、とても美味しいお野菜なの。熟れると赤くなって、口にすると甘くてみずみずしいのよ。栄養価も高いわ。本当は今は採れる季節では無いのだけれど、温室で育てているからここでは年中食べられるの」
彼女は微笑んでスープ皿を手に取り、スプーンで真っ赤なスープをすくって寝たままの僕の口元に差し出してくれた。初めて嗅ぐとても美味しそうな匂いに、ほかほかと漂う湯気に、ぐう、ぐう、と何度もお腹が鳴る。
「さあ、召し上がれ」
勇気を出して、僕は真っ赤なスープを飲んでみた。
美味しい!!!!
目が覚めるみたいだった。温かいスープが信じられないくらい美味しくて、口中にじゅわっと広がったトマトの濃厚で爽やかな味わいに体が震えるようだった。少しだけポタージュスープにかけられたクリームが甘くてとろけるようで、添えられたハーブの香りがはつらつとしていて。もっともっと飲みたいと思った。でも、スープ皿の半分も飲まない内に僕はお腹がいっぱいになってしまう。すぐに眠気が押し寄せてきた。
「ごめん、なさ……い」
「良いの、少しでも食べてくれて本当に安心したわ。どうかゆっくり休んで頂戴ね……」
薔薇の甘くて優雅な香りが、まどろむ僕を抱きしめてくれた。
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