第一章 僕が魔女になるまで・④

 この時、僕は14才だった。ジェームズより一つだけ上だった。鞭で何度も何度もぶたれて、そう言うことにされていた、万が一にも僕が跡取りにならないように。

ずっと、女に生まれた出来損ないで、何をしてもいいバカだって言われ続けていたけれど……でも、まさか。

「それなら良かった」『銀の騎士』は安心したように指を鳴らす。「おい」

いきなり、校門で彼の従えていた護衛の騎士達が僕を囲んだ。

冷たい視線と殺気に溢れたその様子に、僕は何が何だか分からなくてますます怯えることしか出来ない。

「『魔女』を捕らえろ」

僕は無理矢理に腕をねじられて、手錠をかけられた。首輪まで嵌められて、そこから繋がった鎖を、ぐい、と引かれてバランスを崩して倒れる。手錠がかけられていたから、思いっきり顔を床にぶつけた。

「『魔女の証』はどこだ?」

止めて、止めて!僕は悲鳴を上げたけれど、口に引き裂かれた服の切れ端をすぐに押し込まれた。何で、どうして!?無遠慮な視線に裸を突き刺すように見られる辛さに涙が溢れた。頭を振って自由になる足をばたつかせた瞬間、殴られる。何度も、何度も。

少しだけ意識が遠のいた瞬間、下履きを脱がされて、人間にとって一番に見られたくない所を暴かれた。

「あった。やはり青薔薇の形のアザか……」

『銀の騎士』の声が酷く遠いような近いような、はっきりと聞こえるのに……どこかぼやけてもいる。泣きたくないのに、涙が止まらないからかな。

「『銀の騎士』様、どうします?」

「『魔女』は焼いて処刑すると帝国法で決められている。忘れたのか?」

「いえ……多少は遊びたいんですが」

「止めておけ、こんな汚らわしいモノ。貴様らまで臭くて汚くなる、場末の娼婦の方が遙かに綺麗だ。それより彼と彼の一家から事情を聴取するように。無いとは思うが、『魔女』と知っていて匿っていたならば……」


 魔女。

魔の眷属の一つで、とても悪い存在だと聞いたことがあった。


 ……焼き殺されるんだって。僕は『魔女』だから首吊りなんて生ぬるい処刑方法はダメなんだって。明日からしばらくさらし者になって、平民から石を散々ぶつけられてから焼き殺されるんだって。裁判にさえかけて貰えないまま殺されるんだって。


 「お願いします、僕は魔女じゃない!出して下さい!お願いします!」

裸のまま鉄格子の中で泣きじゃくる僕に、牢番達は大笑いする。

「処女のまま死にたくなかったら助けてやるよ!」

「そうだそうだ!いつでも呼べよー!」


 どうしてと思った。どうして。どうして。

僕は何も悪いことなんてしていない。本当に何もしていない。僕は魔女じゃない。絶対に魔女なんかじゃない。

「助けて」

と叫んだつもりだった、でももう喉が嗄れて声が出なくて僕はうずくまる。その時、足と足の付け根から血が流れていることに気づいた。冷えたからか、お腹が痛くて気持ち悪い。血が止まらなくて、このまま死ねるのかな、と思った。いっそ死にたかった。ぽたぽたと垂れて、僕の体が汚れていく。血だまりを見つめていたら、気が遠くなった。僕は壁にもたれて目を閉じる。目も腫れぼったくて、どこもしこも汚くて痛くて、辛くて。

……どうかこのまま死ねますように、と何もかもが遠くなる中で、ただ祈った。


 「わたくしの『青薔薇の乙女』!」

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