第六章 眠り姫に涙と接吻を・③

 キアラ嬢はシャルルさんが少しでも離れようとすると泣いて怖がってしまうようで、シャルルさんは抱っこしながら連れてきた。

「あの街の孤児院もだ。……ソフィー、頼むよ」

孤児院と言う言葉を聞いた瞬間にキアラ嬢はシャルルにすがりついて怯え始めた。

「シャルル、こわい!あそこはいたくてこわいところなの。もどりたくない。なんでもするからここにいさせて!」

「勿論だとも。キアラ、君が望む限りずっとここにいてくれ」

「ほんとう!?」

「ああ。どうかキアラには幸せでいて欲しいんだ。もう少しくらいワガママになって欲しいくらいなんだょ?」

「ワガママ!……。あのね……シャルル、あたし、かたくないパンをたべたい……おこらない?」

「じゃあ今日のお昼に用意して貰うよ。ふわふわのパンから甘いパンまで用意できるパンは全て揃えるからね」

「わあ!」

「その後でお昼寝をしたらお散歩をしよう?お城の温室でとても珍しい花が咲いているんだ」

「うん!」


 アマデオさんが御者をやってくれて、僕達は再びパンゲア大陸に赴いた。

街に着くと、帝国軍が街を覆う城壁を守るように展開していた。

「あら。裏切り者の『銀の騎士』が呼び寄せたようね」

カルロッタ先生は小馬鹿にしたように鼻先で笑う。

「あの程度なら俺の植物魔法で片付けられますけれど……?」

アマデオさんが遠慮がちに、ただ僕達にも聞こえるくらいに声を張り上げて言った。

でもソフィーは首を横に振る。

「ダメよ。わたくしの愛しいジャックと、ジャックのお母様のメアリー様を連中は虐げたのですもの」

ソフィー、僕の大好きなソフィー。僕は嬉しくて愛しくて胸がいっぱいになる。

「ソフィー、行こう。ソフィーが僕を愛してくれるなら、僕はきっともう何も怖くない」


 僕達は馬車を降りて、手を繋いで、城門に至る道をゆっくりと歩き始めた。

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