第六章 眠り姫に涙と接吻を・④
「貴様ら、そこで止まれ!止まらねば矢を、」
城壁の上から僕達を狙う弓兵。その指揮官らしき騎士には当然見覚えがあった。
「やあ、カイル。あれだけ出来損ないと罵った僕をもう忘れたの?」
カイルは絶句して、僕を見つめる。
「まさか……」
「貴方がカイルなのね……。わたくしの愛しいジャックを妻子と一緒に散々に虐待して殺そうとした悪辣な男。手始めは貴方で良いわ」
ソフィーと視線が合ったカイルが、ややあって鎧を脱ごうと暴れ始めた。でも鎧はすぐに脱げるものじゃないから、無様な悲鳴を上げながら体中をかきむしる。
のたうち回って、転げ回って。
痛い、苦しい、止めろ、止めろ、と吠える。
叫ぶ。
喚く。
助けてくれと。
命乞いをする。
でも貴方は僕が止めてとか助けてか痛いとか言った時に一度もそうしてくれなかったよね?
カイルがゲボッと血を吐いた。魚のように口を開けて頭をのけぞらせる――その口から棘が生えてきた。
周囲の兵士達から絶叫が上がる。
最終的に棘はカイルの体中を無数に突き破って、次々に周りの兵士に襲いかかった。
「わあ!僕の大嫌いなものを大好きな薔薇にしてくれるの?」
「ええ。この世界はジャックとジャックの愛するもので満ちていて欲しいの」
何て素敵なんだろう。僕はソフィーの頬に『接吻』した。
「もう、ジャックったら……馬車にはカルロッタ先生もアマデオもいるのよ?恥ずかしいわ」
ソフィーが顔を真っ赤にして僕の手を何度も指先で撫でる。
僕はもう一度『接吻』した。
「僕も本当にソフィーを愛しているの。何も恥ずかしくなんかないよ?」
「……もう、もう!」
ソフィーは俯いて、何かを言おうとして言葉にならないのを何度も繰り返していたけれど、城壁の上から逃げ惑う兵士が何人か落ちた音で我に返ったみたいだ。
「あら、いけない!『銀の騎士』は最後に取っておかないと……叔父様に怒られてしまいますわ」
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