第四章 かつて絶望した一人の男・①
小鳥がさえずる声で目が覚めると、ソフィーが側にいて、優しい目で僕を見つめていた。
「おはよう、ジャック」
「ソフィー!」
体が少し火照っているけれど今までで一番元気だった。でもどうしてかお腹がそれほど空いていない。いつも朝起きてすぐに、ぐう、と鳴ったのに。
「……どうしたんだろう」
「うふふ」ソフィーが意味深に微笑んで、すぐに教えてくれた。「『接吻』でわたくしの命を少し与えたのよ。いきなり永遠の命を共有すると、体が慣れなくて少し辛いそうだから」
これから何度も『接吻』して、少しずつ僕の体を変えていくらしい。
他の誰かだったら嫌だったし怖かったけれど、ソフィーがやってくれるなら、ソフィーの命が入ってくるなら……少し恥ずかしいような嬉しいような、ムズムズした気持ちになる。
「今日はね、貴女に会って欲しい人がいるのよ」
「誰……?」
「わたくし達のお父様とお母様……最後に。『わたくし達の義理の叔父であるジャック様』よ」
「そう言えば……」
どうしてソフィーは僕のお母さんについて知っていたのだろう。『わたくしの義理の叔父であるジャック様』が恋い焦がれていたって……どう言うことなんだろう。
「それも必ず話すと約束するわ」
ソフィーはしっかりと約束してくれた。
朝ご飯を食べると、クリストフォロさんが御者を務める馬車に乗って出かけることになった。
「道中はドラゴン共が騒がしいですけど、気にしないで下さい。繁殖期なんで気が立っているだけで、こちらから何かしなきゃ大丈夫ですから」
ガラスの温室を通って、玄関に出る間にそう説明を受ける。
思い出せば……ずっとこの広い館の外には出たことが無かった。
「ドラゴン?」
それって伝説の……?
「ここでは珍しくないの。馬車の馬もユニコーンよ」
「……」
そう言えば、とカルロッタ先生から教えて貰ったことを思い出す。
『人間の居住する大陸パンゲアより遙か遠くに、魔法の生物が生息する大陸レムリアがあります』
「ええ、カルロッタ先生のおっしゃった大陸レムリアにわたくし達は住んでいるの。ここは人間を丁度良い餌代わりに捕食する生き物が多くて。今までは心配でジャックを外に出すことが出来なかったの……ごめんなさいね」
「僕は何も辛くなかったよ。ソフィーやみんながとても良くしてくれて……愛されて幸せだから」
「好き、大好きよジャック」
耳元で甘い声で囁かれて、幸せなのと嬉しいのとで体が震えそうになる。
「こりゃ200年だな」とクリストフォロさんが楽しそうに笑った。
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