第二章 夢のような現実・④
お腹が空いていたけれど不思議とひもじくはなくて、しばらくぼんやりと薔薇の花の間を飛び交うミツバチを見つめていたら、ドアがノックされた。
「あ、はい!」
「ごめんなさいね、お腹が空いたでしょう」
さっきの召使いの男の人が小さなお鍋をいくつか並べたカートを押して、彼女に続いて入ってきた。
「料理長とも話したのだけれど、当分の間はステーキのような固形の食事は出せないのよ。貴女の体はとても衰弱していて、特に内臓の働きが良くないわ。スープやお粥で十分な栄養を付けて内臓が力を取り戻したら、しっかりと食べていきましょう」
召使いの男の人がお鍋の中身を説明してくれる。
「向かって右から順にお粥、コーンポタージュスープ、溶き卵入りのコンソメスープ、チキンスープ、クラムチャウダーです。お好きなものをお好きなだけどうぞお召し上がり下さい」
全部食べたことは無かったし、お粥とコンソメとチキンスープしか聞いたことが無かった。ただ確信できることは、全部美味しいだろうってことだけ。
「どれが一番美味しいでしょうか……?」
一瞬、召使いの男の人と彼女が顔を見合わせた。何か怒らせたんじゃないかと、ドキリとした。
「では一口ずつどうぞ」
でも召使いの男の人はさっとスープ皿を手に取って、お粥の小さな鍋の蓋を開けて少しだけよそってくれて、彼女にスプーンと一緒に渡してくれた。
「はい、あーん」
召使いの男の人はニマッと笑って、
「いつでもお呼び下さい」
そう言い残して部屋を出て行った。
お粥はさっぱりとした味だけれど何度も噛んでいると甘くなって美味しかった。
コーンポタージュスープは甘くて驚いた。コーンってこんなにも甘いものなんだ。
卵なんて食べたのは初めてだった。
チキンスープの中のチキンは口の中で噛む前にホロホロと溶けてしまった。
クラムチャウダーは少し濃い目に感じたけれど、その濃厚さがたまらなかった。
少しずつ食べたら、また眠くなって……。
薔薇の優雅な優しい香りが、僕を包む。
「ごめんなさ、い……」
「良いのよ、安心して眠って頂戴ね」
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