第五章 沈黙が喋る時・③

 かつて僕が暮らしていた街は何も変わっていなかった。

良いところも悪いところも、何一つ。

何でも今日は『銀の騎士』がまた魔女を捕まえたようで、その処刑があるらしい。

火刑台が作られていて、大勢の人間がざわめきながら楽しそうに処刑の瞬間を待っていた。

「人間ごときに私達が捕まる相手だと思って?」

カルロッタ先生は魔女達の長老のお一人なのだそうだ。とても憤っていた。

「そもそも火で焼かれた所で死ぬ訳が無いわ」

今まで『銀の騎士』が捕まえて殺してきたのは、魔女でさえないただの女性達。

ううん……『銀の騎士』が探知できたという事は『青薔薇の乙女』である可能性がとても高い。

「ここにシャルルがいなくて良かったわ」

気が狂ったようになって脇目も振らずに己の『青薔薇の乙女』を助けようとしただろうから。

カルロッタ先生がこんなにも怒っている所は初めて見たかもしれない。

「本物の魔女と言うものを思い知らせてやりましょう」


 10歳にもなっていない、小さな女の子が無理矢理に引きずり出された。背中には鞭の痕が刻まれていて、ぼろ切れのような布を辛うじてまとっていた。乱暴に髪の毛を刈られていて、その後頭部に『幸せの青い薔薇』の証があった。

「ジャック、わたくしがいるわ」

「ソフィー……」

僕はソフィーと指を絡めた。

「バカにも程がある」ジャックさんが鼻先で笑う。「人間の分際で地母神の末裔である魔女を怒らせるとはな」

女の子めがけて罵声と石つぶてが飛んだ瞬間だった。


 ――ズドン!

足下から凄まじい揺れ。

それまで嗤っていた人間が次々に悲鳴を上げる。

地面が割れて、そこから土塊で出来た巨人が現れたのだ。

「何だこれは!?」

大人になった『銀の騎士』やジェームズ達が混乱している。騎士の鎧を着ていて、槍を持っていて。でもそんなもの、巨人には痛くもかゆくも無い。

「魔女の僕の一つ、『ゴーレム』よ」

カルロッタ先生が空に浮かんでいた。逃げ惑う人間達の上の空を優雅に歩いて、処刑台に優雅に降りると、人差し指を軽く振る。

「あ……」

女の子の手かせや足かせが全て外れた。カルロッタ先生はシルクの布を取り出して、それに女の子を包んで抱き上げる。

「貴女、大事な家族はいるのかしら」

「あたし……もういらないって、こじいんのせんせいたちにも、いわれて、」

「そう。では私達と一緒に行きましょう。貴女を待ちわびている人がいるのよ」

「あたしをひつようって、いってくれるの?」

「いいえ。『必要』なんて弱々しい理由ではなくて、貴女が側にいなければこの世の全てに絶望してしまうわ」

「――貴様!さては仲間を助けにきた魔女か!」

『銀の騎士』が剣を抜いてカルロッタ先生に斬りかかった。

「邪魔よ」

視線だけで剣が粉々に砕けた。

「貴方、ねえ。『銀の騎士』を気取っているけれど、実際は無実の女を焼き殺していい気になっている人でなしと何が違うのかしら?」

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