第五章 沈黙が喋る時・④

 「この僕を人でなしだと!?魔女の分際で何をほざく!」

「ああ、ダメね。貴方は私達と同じ言葉を喋るけれども何も通じ合わない。……そう言えば、ずいぶんと昔から言葉を操るだけの動物だったわね」

僕はソフィーと手を繋いで、逃げ惑う人間の間を通って火刑台に上った。

「お久しぶりですね、自称『銀の騎士』オズワード・ミナーズ・ウィドワーズ」

カルロッタ先生に教えて貰ったように淑女として優雅に挨拶すると、ガタガタと怯えながらもどうにか火刑台から離れずにいた騎士達が動揺した。

「誰だ!僕の名をどうして……」

「あら。貴方の指図で、王立ランドル・デュー学園の廊下で僕を魔女として取り押さえたでしょう」

「嘘だろ……ジャックなのか?」ジェームズの震える声が途中で蛙の鳴くような声に変わった。「――ぐええっ、があっ、がげっ、げええ!?」

変な声しか出ない喉を押さえて苦しんでいる。

「汚らしい分際でわたくしの愛しい人の名を軽々しく呼ばないで頂戴」

ああ、ソフィーが怒ってくれている。僕のために。嬉しくて幸せで頭がはち切れそうだった。

そうだね、もうコイツらに関しての記憶の欠片さえ残しておくのも面倒かな。

何よりもソフィーと愛し合う方が大事だよね。僕の記憶は全てソフィーとの思い出だけで塗りつぶしたいから。

「ソフィー、僕の名前を呼んで?」

「ええ、ジャック……わたくしの『幸せの青い薔薇』!」

僕達は視線を交わして微笑んだ。

その間に僕達やカルロッタ先生の前に、ジャックさんが進み出ていた。凄まじい気迫に押されて後ずさる『銀の騎士』に言い放つ。

「『銀の騎士』、俺はお前の祖先にその魔を退ける力を貸してやった。『青薔薇の乙女』を何においても守護することを誓わせて与えたのだ。だが貴様らはいつしか『青薔薇の乙女』を魔女と呼び、無数に焼き殺してきたな。――契約違反だ、返して貰うぞ」

バチッと青い稲妻が走った。

稲妻に打たれた『銀の騎士』が悲鳴も出せずに卒倒して、とうとう他の騎士達が無様に逃げ出す。


 「……ああ、分かる!分かる、メアリーがどこにいるのか!メアリーの中にある俺の命の一部を感じる!」

ジャックさんが走り出そうとしたところをカルロッタ先生が慌てて止めた。

「先にこの子を送っても良いかしら?すぐに戻ります」

女の子は衰弱して震えていた。かつての僕を見ているようで、心が苦しくなってソフィーの手を強く握った。

ソフィーは僕の指に何度も『接吻』してくれた。

ジャックさんは頷く、「無論だ、シャルルに早く会わせてやってくれ。俺のようになる前に」

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