第六章 眠り姫に涙と接吻を・①

 ジャックさんが素手であっという間にお母さんの棺を掘り起こすのを、僕達は見守っていた。

「ソフィー、お母さんは驚いてくれるかな?」

「ええ、ジャックがこんなにも美しい女性になった姿を見て、必ず驚いて下さるわ」

「僕の大好きなソフィーのことを紹介しなきゃ。僕に、大好きで大事な人が出来たんだよって……」

「嬉しい。わたくしも愛しているわ」

「いつか僕からも『接吻』して良い?」

「まあ。何度でも、いつでも。わたくし、ジャックのことがもっと愛おしくなってしまったわ……!」


 「メアリー……待たせてしまったな」

土まみれのジャックさんが、一瞬だけ深呼吸して、打たれた釘ごと棺の蓋を引き剥がした。

まるで眠っているようなお母さんの姿がそこにあった。

何て綺麗なんだろう。顔色が悪いだけで、後は……あの時のままだ。

ジャックさんがお母さんを抱き起こして、『接吻』した。


 「……う、うう」

お母さんが眉をひそめて、小さな声で呻いた。

「お母さん!!!」

「ジャック……?」

まぶしそうに目を開けたお母さんの顔が、しばらくして驚きに溢れる。

「ジャック!貴方なの、今度こそ本当に貴方なの!?」

「そうだ、俺だ。君の娘も無事だ。……何年も待たせて、済まなかった」

「ジャクリーヌも!」

キョロキョロと周りを見渡したお母さんが僕を見た。

「……ジャクリーヌ……!」

そうだ。

僕の本当の名前は、そうだった。

お母さんの大事な娘としての名前。

「そうだよ、お母さんの娘のジャクリーヌだよ」

お母さんは僕に手を伸ばす。僕はその手を握って、笑った。

「貴女……今、幸せ?幸せなの!?」

「とっても。僕には永遠を誓った愛しい人が出来たんだよ」

お母さんはソフィーと僕を交互に見て、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「良かった……良かったわ……!」

「もう泣かないでくれ、メアリー」ジャックさんが初めて笑顔を見せた。「俺はいつも君を泣かせてばかりだった、だからせめて今度は」

「ジャックはいつも身勝手ね」お母さんは泣きながら笑った。「酷い顔よ、髭くらいちゃんと剃りなさい?」

恥ずかしそうにジャックさんが顔を押さえる。

「……済まない」

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