第一章 僕が魔女になるまで・①

 僕はジャック。女なんかに生まれてしまった出来損ないの騎士見習いだ。

小さい頃の記憶はあまりない。父のカイル、義母のサレッサ、それと異父兄のジェームズから忘れるように何度も鞭で叩かれる間に……それがとても痛くて、怖くて、幾度も泣いて許しを請うていたら、いつしかほとんど思い出せなくなってしまった。

僕は将来は騎士にならなければいけないから、騎士科のある王立ランドル・デュー学園に通っている。でも正式な学生じゃなくて、ジェームズの従者という立場で授業に参加する許しを頂いているだけだ。

「コイツ、バカだからさ」

そう言ってジェームズはいつものように僕の頭を叩く。凄く痛いけれど、僕は抵抗しないで叩かれている。

「この前も赤点取ってたし、マジでバカなんだ」

ジェームズの級友は一斉に笑った。

「あれ、酷かったよなー!」

「『何も教えたことを学んでくれなくて、がっかりしました』って先生も見放してたもんなー」


 最初は彼らも違った。ジェームズが僕の頭を叩く度に、

「騎士は弱い相手に暴力を振るっちゃダメなんだぜ」

「ジェームズ、そういうの止めろよな」

そう言ってくれていた。先生達もジェームズをたしなめたり叱ったりしてくれていた。

でも、僕が何も抵抗しないでいたら、段々、彼らも僕の頭を叩くようになってきた。


 「だってコイツはバカだから何をしても良いんだ」

 「このままでは私達教師の査定にも関わる成績の悪さです。真面目にやりなさい!」


僕は抵抗しないで叩かれるしか無いんだ。少しでも抵抗したら、家に帰った時に鞭が待っているから。

勉強もしたくても出来ないんだ。僕は出来損ないだから、家に帰ったらずっと働かないとご飯を貰えないから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る