第一章 僕が魔女になるまで・②

 それでも1学年の2学期になるまでは、まだ僕は落ち着いた毎日を過ごせていたと思う。

でも2学期が始まってすぐに、学園の理事長を代々務めるウィドワーズ公爵家の御曹司が魔の存在を退ける加護を持つ『銀の騎士』としての素質があると分かった。ウィドワーズ公爵家の血を引く者にはそう言う加護が発現することがあるみたいで。

それまでは家庭教師を付けて学んでいたそうだけれど、彼が『銀の騎士』として色々と騎士のことを学ぶために、この王立ランドル・デュー学園に特待生として入学してくると聞いた時……何故かかつてない胸騒ぎを僕は覚えたんだ。

とても、とても嫌な予感がして、ずっと落ち着かなかった。

……お腹が痛くなって体中がだるくて、休みたかったけれど休むと鞭でぶたれるから我慢してジェームズに付いて学園に行くと、とても綺麗な男の子が護衛の騎士達を引き連れて馬車から降りて、中へと入っていった。

バカで出来損ないの僕と違って、輝くように綺麗なんだ。

ジェームズがやって来たのを見た級友の1人が話しかけてきた。

「なあ、『銀の騎士』、見たか!?あんなイケメンなのにさ、メチャクチャ強いらしいぞ!?」

「マジか!どのくらい強いんだ?」

「たった一人で吸血鬼を追い払ったんだって!」

「何だって!?」


 吸血鬼。人間の天敵だ。恐ろしい怪力と変化の力、使い魔を操って人間の生き血をすする。不老不死の邪悪な闇の王として君臨している。

吸血鬼一匹に対し、帝国の大軍団を動員してやっと追い払えることが出来るくらいだ。

それをたったの一人でやってしまうなんて。

すごいなあと素直に僕は感動したけれど、同時にとても不安になった。たった一人で吸血鬼を追い払ってしまうなんて、人間らしくなくて怖いとも思った。

そう言えば……どうして吸血鬼はすさまじい力を持つ邪悪な闇の王なのに、人間を支配したりしないんだろう?


 「同じクラスになりてえな!」

ジェームズとクラスメートの声で我に返る。

「ああ!ヴィドワーズ公爵の御曹司にお近づきになれたら、きっと俺達も将来良いところに行けるかもな!」

あの胸騒ぎがもう一度、した。

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