第五章 沈黙が喋る時・①

 彼は……汚い服を着ていた。髪の毛はぼさぼさで、目は血走っていて。別荘にいたはずのアマデオさん達が必死に止めようとしているのを平然と無視するように引きずって歩いてきた。

「俺は全て彼女達を守らせるために、彼女達を見いだす力と魔を退ける力を与えたはずだ!どうしてそれが彼女達を処刑するための力となっているのだ!!!!」

世界が引き裂けるような絶叫をあげて、ジャックさんは床にうずくまって何度も床を殴った。大理石の床が粉々に砕けて飛び散る。

「――俺の最後の願いを裏切った連中がどうして今でものうのうと太陽の下を歩いている!」

そのままアマデオさん達を振り切って飛び出そうとした背中に、僕は叫んだ。

「僕のお母さんのメアリーはまだ生きているんだよ!」

止まって、ややあってジャックさんは振り返った。

「……君は……?」

「ジャック。お母さんは僕をそう呼んでくれた。『貴方の名前』で僕を呼んでくれたんだ。お母さんが貴方を嫌って疎んでいたとそれでも思うの?」

ジャックさんが激しくわなないた。ようやくアマデオさん達に抑えられるまま、ぐしゃりと床に座り込んで、力なくむせび泣き始めた……。


 「メアリーには……どう謝っても取り返しの付かないほどの酷いことをした」

ユニコーンの引く馬車に乗ってパンゲア大陸に向かう間、ジャックさんは話してくれた。

「一方的な激情で彼女の人生を台無しにした」

「ええ、貴方がまさか拉致するなんて思いませんでしたわ」

同乗してくれているカルロッタ先生がため息をつく。

「あの日の夜明けに貴方が拉致してきた時、彼女は気絶してしまっていた。目が覚めた後は男性に対して酷く怯えていて……一体何をしたのです?」

「女性の前で話せることではない」

カルロッタ先生が平手でジャックさんの頬を叩いて、鋭い声で詰った。

「沈黙で誤魔化すおつもり?」

「……」

それでもジャックさんは口を閉ざした。頑として言わなかった。

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