第三章 吸血姫は青薔薇に憧れる・②

 気付いたら夜だった。目がパンパンに腫れて痛くて、瞬きするとしょぼしょぼした。ベッドの中で、ソフィーが僕を腕の中に抱きしめてくれていて、あの甘い薔薇の香りがいたわるように僕を包んでいてくれる。

「ソフィー、ごめんね」

謝ったら声がガラガラに嗄れていて、ソフィーはすぐにコップに水差しから水を注いで渡してくれた。僕は一気に飲んで、冷たい水が喉を通るとやっと落ち着いた。

「ジャック、どうか無理をしないで頂戴」

何の偽りもなく、ソフィーは僕を心配してくれていた。

「……あのね」

僕は3つの時に母がカイルに殺されたことを話した。それからずっと酷い目に遭ってきたことも。

とうとう『銀の騎士』に魔女扱いされて、焼かれる前にソフィー達が助けてくれたこと。

同情を買いたかったんじゃない、ただ話さないとどうしようもなく苦しくかった。

黙ってソフィーは最後まで聞いてくれて、僕が泣きながら全部話し終えたらもう一度水をくれた。

「ずっと辛かったのね、もっと早く助けてあげられなくてごめんなさいね……」

ソフィーが悲しんでくれている。

僕のために、心から。

それだけでずっと心の一番の奥で苦しくてたまらなかった何かが、すーっと溶けて消えていくような気分だった。

「良いの。だってここに来たら、僕は本当に幸せなんだ。みんな優しくて面白くて、ご飯も美味しくて、ベッドはふかふかで……。なのに、『どうしてお母さんがここにいないの?』って……どうしようも無いことだったのにそう思ってしまうんだ」

きっと、ここにいたらお母さんも『女を産んだ』ことで責められなかった。

「ジャックのお母様は、どんな方だったのかしら」

優しく頭を撫でられながら、僕はソフィーの胸の中で甘える。

「ソフィーみたいに優しくて……そうだ、左の背中の上にね、『青い薔薇』みたいなアザがあったんだよ」

僕の頭を撫でていた手が止まった。

「ソフィー……?」

「お母様の……お名前……伺ってもよろしいかしら?」

どうしたんだろう。ソフィーの声が震えている。

「う、うん。お母さんの名前はね、メアリーって言ったんだ」

「もしかしてジャックと同じ黒髪で、青い瞳だった?誰かが少し悲しい時に笑わせようとして、トントンと右手の人差し指で鼻の頭をわざと叩く癖があって……」

ドキリとする。

「どうして知っているの……?」

「メアリー様は……『わたくしの義理の叔父であるジャック様』が恋い焦がれていた『青薔薇の乙女』だったのよ」

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