第11話

「お、鬼だ……! 女鬼がいるぞ!」

「違います! 私は人間で……」

「どっかに行け! 化け物が!」


 男性の一人が近くに落ちていた石を拾って弥生に投げつける。石は弥生を包む緑色の光に触れると粉々に砕けたのであった。


「ひぃぃ……!?」

「待って下さい! 私は人間です! 中で倒れているこの人を助けて……!」


 弥生は呼び止めるが、男性たちは背を向けて逃げて行く。弥生の足元に落ちていたガラス片が風で舞い上がると、男性たちの背中に向かって弾丸のように飛んでいったのであった。


「わああ!」

「ひぃぃ!」


 ガラス片は真っ直ぐ飛んでいくと、男性たちに当たることなくそのまま近くの木に刺さる。けれどもこれがきっかけとなって、近くで様子を見ていた人たちに異常が知られてしまった。泣き叫ぶ声はますます大きくなり、パニックが伝染したのであった。


(このままじゃ……)


 制御しきれていない鬼の力が暴れて、ますます無関係な人を傷つけてしまうかもしれない。

 弥生は近くの景石を足場にすると白い塀をよじ登る。そのまま這うようにして家を囲む塀の上を歩くと、敷地の外に出たのであった。


「誰か! 女鬼がいたぞ!」


 後ろから声が聞こえてくるが、弥生は振り返ることもなく一心不乱に走り出す。

 行く当てはどこにも無かった。助けを求めようにも、すれ違う人たちは誰もが奇妙なものを見るか、恐れるような顔をしていた。声を掛けるどころか、近づくことさえ憚られた。


「はあはあ……」


 人通りが少ない道で立ち止まると、弥生は膝に手をついて息を整える。すると空が急に暗くなったかと思うと、激しい雨と共に強風が起こったのであった。


「そんな……!」

 

 近くの家々の屋根が飛び、物が倒れる音が聞こえると、通りかかった人たちが悲鳴を上げながら近くの柱や塀に掴まっていた。


(ここじゃ駄目。関係ない人を巻き込んじゃう!)

 

 弥生が走り出すと、雨は止んで風が止まった。やはり暴風雨は弥生を中心にして発生するらしい。

 周囲に誰もいないところを探しながら、ただがむしゃらに足を動かし続けたのであった。


(どこか。どこでもいい。誰もいないところ、誰も傷つけないところに……!)


 しばらく走ると、弥生はどこかの石段の前にいた。見るからに古く今にも倒れてしまいそうな年季の入った鳥居から、しばらく誰も手入れをしていない場所だろうと考える。


「もしかして、ここなら……」


 弥生は意を決して鳥居を潜ると、石段を登ったのであった。

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