鬼の力と弥生の変幻
第18話
朧の家に着くまでの間、朧から鬼や鬼が持つあやかしの力、そしてあやかしについて教えてもらった。
鬼は大きく分けて五つの属性に分かれているらしい。
火の力を操る火鬼、水の力を操る水鬼、土の力を操る土鬼、鋼や鉱物を操る金鬼、そして木を操る木鬼である。
他にも弥生が持っている風を操る風鬼、雷を操る雷鬼、氷を操る氷鬼などもいるが、それは木鬼や水鬼の中に属するとのことであった。
五属性の内、土鬼と金鬼はほんの数人しか残っておらず、他の三属性の鬼も数を減らしていた。近年は妖力が弱く、鬼の力を振るえない者ばかり増え、更に女鬼となると各属性に一割いるかいないかという状態らしい。
「どうして、鬼は減ってしまったんですか?」
「大昔に大規模なあやかし狩りがあったんだ。知っているか。当時の武士や陰陽師といった人間たちが日本に点在するあやかしを討伐した話」
「歴史や民俗学の授業で聞いたことがあります」
それ以外でも鬼を退治した昔話や民話をいくつも知っていた。山に住んで人間に悪さをする鬼、人間たちから金銀財宝を取り上げて独り占めする鬼の話などがあった。
「昔の現世とかくりよは今よりもっと密接していた。行き来は簡単で、あやかしが見える人間も大勢いた。お互いに良き隣人だったと言われている。それがいつからかあやかしは恐ろしい存在で、この世界に存在してはならない者として扱われるようになった。そんな俺たちあやかしを退治するために、現世から多くの人間がかくりよに押し寄せたんだ」
あやかしたちは協力して人間たちと戦い、現世に追い返したが、多くの同胞を喪った。
どうにか生き残ったものの、戦いで怪我を負って妖力を失ったあやかしもいれば、種族を存続させるのが難しくなり、滅びたあやかしもいた。
また戦いで武勲を立てたあやかしと逃げ回っていたあやかしとの間には完全な溝が出来てしまい、功績を上げたあやかしとその種族は上町と言われる上級街で贅沢三昧の生活を送り、逃げたあやかしは下町と言われる下級街で細々と暮らすようになったのだった。
下町にも住めない力の弱いあやかしは現世に避難して、人間を避けるように息を潜めて暮らしているらしいので、弥生や弥生の祖母の周りに集まっていたあやかしもかくりよから逃げて来たあやかしたちだったのかもしれない。
「どうして、人間はそんなことをしたのでしょうか。全てのあやかしが悪いあやかしじゃないのに……」
「恐らく当時の権力者たちは自分たちの権力を自国の民や周辺諸国に誇示したかったんだと思う。それには成果が必要だが、成果に繋がるような出来事が国内で起きていなかった。手っ取り早く成果を上げるには戦いが良かったが、それには敵が必要だった。例えば誰もが知っていて、誰もが恐れているような存在が……」
「それであやかしを敵と定めてかくりよにやって来たんですか。自分たちが強いと示す為だけに……」
「あくまで俺の想像だけどな。本当のところは誰にも分からない。だがその戦いで鬼の大半が討伐されてしまった。女鬼も子鬼も関係なく……。あやかしの中でも特に鬼は古くから民間伝承などで伝えられている恐怖の存在だ。知名度が高い鬼は敵として丁度良かったらしい」
「それでも鬼だからって理由だけで殺されるのは納得がいきません! こんなのただの虐殺です」
「虐殺か……。そういう考え方もあるんだな」
含むように朧が呟いたので、弥生は「違いますか?」と尋ねるが、朧は何も答えてくれなかった。
「生き残ったあやかしたちは新しい生き方を考える必要があった。その際に婚姻に対する考え方が変わったんだ。それまでは同じ種族で同じ属性を持つ同族じゃなければ結婚出来なかったからな」
それまでは子孫を残す為に同じ種族内の同族同士が婚姻を結ぶのが通例だったが、人間たちとの戦いやその後のあやかし同士の諍いが原因で絶えてしまったところもあった。
そういう時はその属性が持つあやかしの力を絶やさないように同種族内で話し合い、養子として引き取ったあやかしに亡くなったあやかしの妖力ごと力を受け継がせることで存続させることにした。まさに朧がやろうとしていた風鬼の力を受け継ぐ儀式のように。
ただ今度は力を受け継ぐ側のあやかしたちの妖力が年々弱まっており、あやかしの力を受け継いでも力の受け皿となるあやかしの身体が耐えられずに、力ごとあやかしが消滅してしまう話が増えてきた。後継者に定めたあやかしが力を受け継げず、種族が途絶えしまったあやかしも。
このやり方を続ければ、いずれ全てのあやかしが根絶やしになる危険性があることから、今では懸念の声も上がっているという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます