第10話

「きゃあ!」

「うわぁ!」


 男性とぶつかった弥生は畳の上に転ぶ衝撃を覚悟して目を瞑る。いつまで経っても衝撃がこないので弥生がそっと目を開けると、男性が片手で弥生を抱いて反対の手で壁を支えていたのであった。


「あっ……」

「無事か?」


 元の宵闇色に戻った目を向けながら男性が尋ねてくる。これまであやかしが見える体質の為、特定の男性とこういった経験が無い弥生には端麗な顔立ちの男性の顔が眩しく見えた。


「は、はい……」

 

 弥生は激しく音を立て続ける胸の鼓動を聞きながらなんとか頷くと、男性の腕の中から抜け出そうとする。そんな弥生と男性の間に青い光の球が入ってきたのであった。


「これって……」


 青い球が弥生の中に消えると、弥生の身体が燃え上がるように再び熱くなる。身体の内側がむず痒くなる感覚に、弥生は男性を突き飛ばすと腕の中から逃れたのであった。


「おい! 人間……!」


 声を掛けられるも、弥生の身体の中で大きな炎と激しい竜巻が起こっているようで、話すことはおろか口を開くことさえ敵わない。

 男性が弥生の両肩を掴むが、静電気が起きた時のように触れたところから小さな火花が散ってしまい、すぐに手を離してしまう。


「ぐうぅっ……」

 

 息をさえ難しくなり、胸元を押さえて身を小さくすると、弥生を中心にして風が発生した。

 風は勢いを増していき、やがて弥生の身体から力が抜けると、部屋を満たすような突風に変わったのであった。


「おい! 人間……!」


 声を掛けられるも、弥生の身体の中で大きな炎と激しい竜巻が起こっているようで、話すことはおろか口を開くことさえ敵わない。

 男性が弥生の両肩を掴むが、静電気が起きた時のように触れたところから小さな火花が散ってしまい、すぐに手を離してしまう。


「ふうぅ……」

 

 息をさえ難しくなり、胸元を押さえて身を小さくすると、弥生を中心にして風が発生した。

 風は勢いを増していき、やがて弥生の身体から力が抜けると、部屋を満たすような突風に変わったのであった。


「人間、早く鬼の力を止めるんだ!」

「どうやって!?」


 風に負けないように声を張り上げながら話している間も、突風は部屋の家具を倒し、置物を縦横無尽に飛ばす。飾っていた瀬戸物が壁に当たって割れると、破片が宙を舞ったのであった。


「ぐぅ……」


 飛び散った破片が男性の頬を擦ると、浅く切れたのか少量の血が流れる。血は突風に混ざるとすぐに消えてしまったが、弥生にショックを与えるには充分であった。


(私が風鬼の力を止められないから……力を返せないからあの人が傷ついて……)


 弥生の目から涙が溢れると、今度は身体から青白い光が放たれる。荒れ狂う突風は雨のような水を纏い、暴風雨となったのであった。


「まさか俺の鬼の力まで……!? 人間、止めるんだ! そうしないとお前が鬼になってしまうっ!!」


 叫んだ男性を阻むかのように、暴風雨は風向きを変えると男性に狙いを定める。向かい風を受けた男性はその場に立っていられなくなり、後ろに向かって飛んでいく。

 男性はガラス窓に叩きつけられると、ガラスが割れる音に続いてその場に倒れてしまったのであった。


「きゃああ!」


 空気をつん裂くような弥生の悲鳴が響いたのか、ガラス窓が割れる音が大きかったのかは知らないが、暴風雨に紛れて外から話し声が聞こえてきたのであった。


「中で争っているの!? 誰か警察を呼んでおくれ!」

「母ちゃん。怖いよ……」

「この家は男が一人暮らしだったか? 様子を見に行くか……。誰か一緒に来てくれ」


 近所の人が集まって来たのか、やがて人の声と足音が多くなってくる。


(ここにいたら関係ない人まで巻き込んじゃう……)


 気を失った男性の様子も心配だが、それよりもここに人が入って、暴風雨で二次災害が起きる方が怖かった。弥生は窓に近づくと、割れたガラスで手足を切りながら外に出る。


「いたっ!?」


 窓から地面に足をついた瞬間、外側に落ちていたガラス片が足の裏に刺さって声を上げる。


「誰だ!?」


 声が聞こえてきたので振り返ると、そこには着物姿の男性二人が恐怖で顔を引き攣らせていたのであった。

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