第5話

 弥生の祖母も弥生と同じく生まれた時から高い霊力を持ったあやかしが見える人だった。これまで何度も弥生と同じように危険な目に遭ってきたはずだが、それでも祖母はあやかしたちに優しく接していた。

 怪我をしたあやかしには治療を施し、空腹に苦しむあやかしには食事を与えて、弱いあやかしを慈しんでいた。そんな祖母はあやかしたちに好かれており、いつも祖母の周りにはあやかしたちがいた。そんな祖母を見ていたからこそ、いつか祖母のようにあやかしたちに好かれるような優しい人になりたいと思ったものだった。

 あやかしについてたくさん教えてくれた自慢の祖母だったが、弥生が中学生の時に亡くなってしまった。表向きは病死になっているが、本当は祖母が持つ高い霊力を狙ったあやかしに殺されたのだった。


 弥生が物心をついた時から祖母の近くには常に妖力の強い若い男性のあやかしが用心棒として控えており、霊力を狙うあやかしたちから祖母を守っていたが、そのあやかしがいない隙を狙って、祖母は殺されて霊力を奪われてしまった。

 今ではその用心棒をしていたあやかしの顔さえ思い出せないが、見た目は人間と何も変わらないながらも、どこか人間離れした恐ろしさと剛勇さを持っていた覚えがあった。本来なら妖力の強いあやかしに怯えるはずの妖力の弱いあやかしたちからも何故か慕っており、弥生もたまに遊び相手になってもらったような気がした。

 もうほとんど覚えていない祖母の用心棒をしていたあやかしだったが、唯一覚えている記憶があった。それは祖母の葬儀の時だった。

 大人たちから離れて、葬儀場の外でいじけたように座っていた弥生の元に、そのあやかしが姿を現したのだった。


『謝って済む問題じゃないと分かっている。でも本当にごめんね。やよちゃん……。大切なおばあちゃんを守れなくって……』

 

 そう言って、そのあやかしは繰り返し弥生に懺悔をしたが、急な祖母との別れで頭の中が混乱していた弥生は酷いことを言い放ってしまったのだった。


『あなたのせいでおばあちゃんは死んでしまったのよ!? どうしておばあちゃんを守ってくれなかったの!? おばあちゃんを返して! 返してよっ……!!』


 大好きな祖母を失って感情の整理がついていなかったとはいえ、そのあやかしにやつあたりをしてしまった。それに気付いた時にはそのあやかしは消えており、謝ろうにもそれ以来一度も会えなかった。

 そして大好きな祖母も祖母を守っていたあやかしもいなくなり、一人になって始めて、弥生は自分がいかに周囲に守られていたことを知った。祖母が亡くなってから、それまで以上に悪いあやかしたちが付きまとってくるようになったからであった。

 今までは祖母を付け回していたあやかしたちが、今度は弥生を付け回すようになったのだろう。もしくは祖母を殺して霊力を奪ったあやかしが弥生の存在を吹聴したのか……。

 それからというもの、弥生はあやかしたちから命を狙われる日々を送るようになり、次第にあやかしと距離を置くようになった。やがてあやかしと関わること自体が怖くなってしまったのだった。

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