第26話

 林間学校最終日、昨日の興奮が収まらなかったのか早く目が覚めた。

 だんだんと明るくなっていく空を眺める。


「……あ、彰人さん」


 後ろから彼方に名前を呼ばれる。

 彼方が起きたことを知っていたから俺は驚きはしなかった。


「おはよう、彼方」


 俺はいつも通り接する。

 すると、彼方の瞳に涙が溜まっていく。


「……ごめんさい。彰人さんに“いいよ”と言われてから、記憶がありません。きっと、酷いことをしましたよね。彰人さんは“見限らない”と言ってくれましたが、こんな私が傍にいて良いはずがないですよね。今後は一切近づかないようにします。騙して、本当にすみませんでしたっ」


 彼方が勢いよく頭を下げる。


「あー、実は何もされてないんだよね」


 彼方がぽかんと目を丸くする。


「え、だ、だって、あの時本当に自我を保てずに……」


「天音が来てくれたんだよ」


「鶴原さんが……?」


「勘だって言ってた」


「……敵いませんね」


 彼方が小さく笑った。


「ですが、酷いことをしていたことには変わりません。なのでこれからは、近づかないように――」


「そんなことしなくていいって」


 彼方の言葉を遮る。


「で、ですがっ」


「天音じゃないけど、面倒くさいよ?結果的に何もなかったんだ。それに、“ごめんなさい”って言ってたし。なにより、彼方友達いないじゃん」


「め、面倒くさい……それに、友達いない」


 あからさまに落ち込む彼方。

 ごめん、言いすぎた。実里さんがいる。天音も。


「とりあえず、俺も友達少ないからさらに減るのは無理。だから、勝手に離れるの禁止」


「は、はい!」


「まあ、これからは近づきすぎないようにするよ。今まで距離近くて我慢するの大変だったんじゃないか?」


 彼方のことを男として接していたから、どうしても距離感が近くなっていたんだよな。

 一緒に風呂に入っていたとき、どんだけ我慢してたんだろ。


「い、いえ、我慢できますので今までと同じように接してほしいです。彰人さんがいいのなら……」


「そうか?じゃあ、そうするけど」


 大丈夫か?また昨日みたいに歯止めが効かなくなるんじゃ……。


「き、昨日は、そ、その、彰人さんのあ、あそこが……」


「おっけ、おっけ!言わなくていいよ?」


 彼方が顔を赤くする。


 いや、仕方ないよね。目の前に女体があったんだから。生理現象だ。

 女性が苦手とはいえ、反応はするのだ。


「だ、だから大丈夫だと思います。今までも我慢できていましたし……」


「分かった。彼方を信じるよ。じゃ、改めてよろしくな」


 俺は笑顔で彼方に右手を向けた。

 あの日と同じように。


「はいっ!よろしくお願いします、彰人さん」


 彼方は、眩しいと錯覚するような満面の笑顔を浮かべた。

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