第4話

「ほら、ちゃんと歩いて」


「……眠い」


 夕食の時間になっても起きなかった鶴原さんをひとまず叩き起こした。

 そして、未だに眠そうにする鶴原さんの服の袖を引っ張って廊下を進む。


「あきと、おんぶ」


「……それは嫌だ」


 さっきまで後ろから抱きつかれていたとは言え、まだ苦手なところは変わっていない。


 断られた鶴原さんはそれ以上何も言わずに着いてきた。


 数分歩くと食堂に着く。

 もうすでに結構な人数がいた。


 年上の二年生や三年生もいるけど、当たり前のように女子だ。


 これじゃ、俺がおかしいみたいじゃん。

 おかしいのは、絶対女子の方なのに。


 まあ、もういいけど。


 夕食はバイキング方式で、自分で取っていくようだ。


 さっそく、鶴原さんを連れて取って食べようとしてるんだが……


「あきと、食べさせて」


 鶴原さんがおかしなことを言い出した。


「自分で食べなよ」


「面倒、くさい」


 頭を少しふらふらさせながら鶴原さんは言った。


 ……まじかぁ。


「わかったよ」


 俺は鶴原さんのフォークを取って、鶴原さんのお皿からケーキを一口分取って口に持っていく。


「ん」


 鶴原さんが小さく口を開いてケーキを入れた。

 黙々と咀嚼してる隙に俺は自分のご飯を食べる。


 一流シェフが作ってるんだっけ。美味しいな。


「ん」


「あ、はい」


 つか、鶴原さんのお皿デザートしか乗ってないんだが?


「甘いもの好きなの?」


「うん」


 鶴原さんが口をもぐもぐと動かしながら頷く。


 ……だとしても、全部デザートはやりすぎな気がする。

 明日の夜はおかずも入れさせよう。



◆◇◆◇◆◇



「あきと、おんぶ」


「嫌だ」


 鶴原さんを食べさせていたおかげでいつもより遅くなった。


「ちょっとトイレ行ってくるから先に帰ってて」


「ん」


 部屋にもトイレはあるんだけど、食堂を出て進んだところにトイレがあったからそこに入る。

 トイレには当然のように男子トイレしかなかった。


 はあ、疲れた。

 これでまだ一日ってのが嫌になる。


 何故か男だとバレなてないからいいけど、バレるかもっていう緊張は取れないんだよな。


 それに、鶴原さん。

 悪い子ではないんだけど、面倒くさがり。もう、依存されてるところがある。

 どうしても距離が近くなってしまうのがいただけない。

 でも、いろいろと心配になってしまうから無視はできない。


「はあ」


 本当に大丈夫か?


「え?」


 後ろから高い声が聞こえる。

 驚いたような、唖然としたような声だ。


 トイレに入った人なんだろうけど、どうしたんだろ。

 トイレには俺しかいないはずなんだが。


「お、男!?」


「ッ!?」


 え!?バレた!?

 ど、どうして!?


 振り返ろうにも今トイレしてて動けない……って、これか!!


 そうじゃん!女子って立ちションしないじゃん!!


 普通にあったから何も考えずに使ってた!


 まずい、まずいまずいまずいまずい。


 どうする?どう言い訳する?


 ……いや、無理だろ。

 女子はこれ使わない。


 あぁ、終わった。

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