第13話

「はあ、はあ、はあ、ただいまっ」


 屋上から全力で走って帰ってきた。


「どうしたの?」


 天音が俺の元まで来る。


「それが、告白されたんだけど、お姫様抱っこしてって襲いかかってきて。逃げてきた。同性と付き合うのは、まだハードルが高いよな」


「昨日から思い悩んでたの、それ?」


「そうだよ。心配かけてごめんね」


「頼ってほしかった」


「え?」


 天音のはっきりとした声音に驚く。

 いつもは眠そうな瞳は真剣な色を帯びていた。


「まだ、出会って三日だから難しいと思うけど。でも、私はあきとを信用している。だから、いつか私のことも信じて……くれると嬉しい。頼られないのはちょっと悲しかった」


 昨日の部屋での変な表情は、そういうことだったのか。


 悪いことしたな。天音の言うとおり、俺は天音を信じきれなかった。

 次からは相談しよう。


「ごめんね。内容によるけど、次からは相談するよ」


「ん」


 満足そうに天音は目を細めて笑った。



◇◆◇◆◇◆



「天音、起きて。ご飯食べに行こ」


 いつもの時間に天音の肩を揺らす。


「……ん、おんぶ」


「……まあ、いっか」


 俺は天音に背中を向ける。

 未だに寝ぼける天音は、俺の背中にゆっくりと這い上がる。


「落ちないようにな」


 俺は天音の太ももをしっかりと掴んで部屋を出た。



 ――それは、食堂が目の前に見えた廊下を進んでいたときだった。


「あ!いた!!」


「げっ」


 この声は、屋上の人だ。

 俺は駆け足で食堂へ向かった。


「待って、逃げないでよ!」


 逃げるに決まってんだろ!



 はい、捕まりました。


 食堂で走れるわけもなく、その上天音を背負っていて目立つから隠れられない。


 そういうことで、今屋上の子も一緒にご飯を食べています。

 それから、彼方も来たので、四人で食べてます。


「おんぶでいいから!」


「ごめんなさい」


 食堂ということもあって、襲いかかってくることはないけど、しつこくお願いされる。


「あきとの背中は私のもの」


「それも違うけどね」


 何故か誇らしげに胸を張る天音にツッコミを入れる。


「やっぱり、鶴原さんと付き合ってるよね?」


 屋上の子から放課後に否定したことを再度聞かれる。


「付き合ってないよ」


「おんぶしたり、あーんしたりしてるのに?」


「うん」


 天音は妹みたいな感じだな。


「ふーん。だったら二人ともこれから大変になるね」


「どういうこと?」


 屋上の子が聞き捨てならないことを言った。


「池田さんって既に狙われてるんだよ、今もね」


「え?」


 俺は首を振って周りを見渡す。


 じー


 そんな音が聞こえると錯覚するほど見つめられていた。


「こわっ」


「おんぶもそうだけど、身長も高いからね。中学のとき、身長の高い子も同じ状況だったよ」


 周り女子だから、男だと頭が飛び出るんだよな。

 彼方は、女子と同じぐらいなんだけど、言わないであげよう。気にしてたら悪いし。


「西園寺さんがいるのが幸いだね」


「彼方が?」


 俺は彼方の方を見る。彼方は俺たちの会話に耳を傾けて平然とご飯を食べていた。


「西園寺さんがいるから池田さんに近づけないみたい」


 おぉ、さすが五大財閥の息子だ。

 もう、彼方無しでは生きれないかもしれない。


「それで、どうして天音が大変になるんだ?」


 天音は関係ないよな?


「付き合ってないなら、鶴原さんはただ池田さんを顎で使っているだけ」


「そんなことない」


 屋上の子の強い言い方に天音が否定する。


「俺は、自分の意思でやってるからそれは違うよ」


 俺も少しだけ強く否定する。


「ごめんなさい、怒らせたかったわけじゃなくて。ただ、周りの人からはそう見えるよってこと」


 あ、そういうこと。


「気にしないから大丈夫」


 それに対して、天音はそう宣言した。


 ちょっと心配だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る